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書評:敗局は師なり――知られざる名勝負物語

 というわけで今日はこれの書評を一つ。



 溜池通信の 6/23 の日記で一部引用されているのを見て、ちょっと興味が出たので読んでみようかと思ったらすでに絶版;。やむなくヤフオクで落札して軽く読んでみたり。や、どういう本かというと、将棋の世界は勝負の世界なので、当然のように勝者にスポットが当たる。しかし、超一流棋士たちが痛恨の敗局を喫したとき、いったい彼らは何を失って、何を得たのか。序文にこんな文章が書かれてます。

 ……勝負の価値は、そこに賭かっているものの大きさで決まる。だがそれは、勝者が何を獲得するかということより、敗者が何を喪失するかということの方が大きいのではないか。そして敗局の中にこそ、その人の真実がありはしまいか。
 私は多少は将棋が分かるものの、棋士たちの譜面を理解できるほどの実力には程遠いので、この本で採り上げられている棋譜はほとんど分からない。けれども、そこに綴られているのは棋譜そのものではなく、それを作り上げている人間のドラマ。タイトルホルダーの棋士たちが若手に破れたときの痛恨。対局料が安くなったり、サイン色紙を求められて肩書きが書けなかったり、弱くなったとたんにファンたちが離れていったり。目の前に突きつけられるリアルが、失意をより根深いものにする。

 そうした挫折やカベにぶち当たったときこそその人の真価が問われるわけですが、この本を読んで興味深く感じたところは、彼らは決して相手を貶めたり目をそらしたり逃げたりしていない、という点。時間はかかっても、様々なモノに触れて、何かのヒントを得て、彼らはその挫折を『消化』している。普通、挫折というのは『乗り越える』とか『克服する』ものだと言われるんじゃないかと思うのですが、乗り越えようとしてかえって泥沼にハマってしまうケースも多い。けれども、彼らは何かしらそこから悟りを得ているんですよ。
 そう、風車になればいいんだ。風の吹くまで二年、三年かかろうと、ちょうどいい機会と考えて勉強しよう。そう考えると、肩の重い荷が全部おりた気がした。
 何気なくもらした娘の無邪気な言葉(「パパも将棋を習ってるのね」)が、内藤の気分を落ち着かせた。普通なら聞き流してしまうところだ。それを師の声のように聞けたところに内藤の充実が感じられる。
 これだ。自分は将棋を「知る者」だった。しかし中原名人は将棋を「楽しむ者」だった。「好む者」よりも上なのだから自分より二階級上ということになる。そうか、それで恐怖心が湧いたのか。
 F1 のアロンソなんかを見ていても思いますが、確かに勢いのある若手は、何もかもぶち壊して突き抜けていく強さがある。それに対して追われるものの立場にある人はすぐに引退やらなにやらと書きたてられる。実際、老兵は老いては去るのみとか言われるわけですが、けれども本当にそうなのか。
 だが大事なことは、敗戦はただマイナスばかりではないことである。敗戦の悲しみを糧にして棋士は立ち直る。沈潜した悲しみがその人を強くし、さらなる飛躍をもたらすのだ。挫折なき人に、超一流はいないのである。
 順風満帆なだけの人生はなく、挫折を消化しているからこそ人としての厚みが出てくる。おそらくどの業界にもいる『ベテラン』と呼ばれる人々は、そうした域に立っているからこそ『超一流』なのでしょう。や、確かにこれは名著と言われるだけのことはある一作。なかなかいい本でした。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006/7/26 00:55 | 4.雑学&雑感

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Pastel Gamers Blog 〜Pasteltown Network Annex〜 書評:敗局は師なり――知られざる名勝負物語

サルバトーレフェラガモ : 2013年7月5日 01:44


コメント

この手の勝負にまつわる話は人間臭くていいですね。

普通のサラリーマンと違って、求められるスキルはシンプルに勝つだけ、だからこそ逃避も出来ず、良くも悪くも先鋭的になるような。

私はある種の粘っこさがなかったから将棋を指さなくなってしまったけど、若いころから未熟に達観するべきじゃなかったか。今でも彼らプロ棋士は自分にとって一番人間らしい人間で、ひそかに憧れの人々です。

投稿者 夏のこたつ : 2006年7月27日 01:19

将棋だけに限らず、野球などのスポーツ類についても同じことが言えますね。

私は F1 が好きでよく見るんですが、デーモン・ヒルなどが時おり見せる人間味に心動かされた記憶があります。
まさに超一流というのは勝つために全力で戦っているのだ、と。
……とても真似できるようなものでないだけに、やはり憧れるものがありますね。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006年8月4日 02:48

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投稿者 bad credit loans : 2013年4月7日 09:13

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