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というわけで今日のインプレはこちら。
ええっと、新井葉月さんのコミックス、薬屋りかちゃん。新井葉月さんのインプレは過去にも書いたことがありますが、かつてなかよしで活躍されていた作家さんで、現在はアクションコミックス(コミックハイ!)に移籍されてそちらでコミックスを描かれている様子。で、その最新刊がこちらの「薬屋りかちゃん」。
以前にもちらっと書きましたが、新井葉月さんは現役の薬剤師さんで、中学 3 年生でデビューを果たした若き天才作家さん。当時の担当さんが、漫画家一本でやろうとせずに、食べていける技術、資格を身につけなさいとアドバイスしてくれた(← 今だととても考えられないような話ですが;)ために、漫画家との二足のわらじを履きながら薬剤師の資格を取り、現在では調剤薬局の主任さんを務めているのだとか。そんな新井葉月さんが、薬剤師をテーマにして描いたコミックスがこの作品。実はコミックスそのものを完全に見落としていて、先日 vol.2 が店頭に並んでいたので初めて気づいたという体たらくぶりなのですが、いやはや読んでみてびっくり。
素晴らしすぎる....。
というかこの豊かな感性はいったいどこから生まれてくるのか、と思わずにはいられなかったり。
え……?
私……
ナニ言った……?
この物語は、新米薬剤師の塩乃樹リカが、薬局の最前線で様々な経験を通して成長していくという、ある種の王道ストーリー。医師の処方箋やジェネリック薬品、タミフルなどの様々なネタを交えながら、主人公が成長していく様が描かれているのですが、この作品の素晴らしさの本質は、これが気付きの物語になっていること、じゃないかと思うんですよね。
薬剤師というお仕事は、いわゆる専門技術職(プロフェッショナルな職業)であり、高度な知識が求められる。けれども(どんな専門技術職でも)ある一定レベルを超えると、必ず何かしらのヒューマンスキルが求められるようになってくると思うんですよ。この主人公リカは、大学卒業から間もない独身女性という設定になってますが、やってくるお客さんの中には、子供もいればお母さんもいるし、お客さんの中には信じられないような薬の使い方をしてしまう人もいる。そうした人たち、つまり自分の知識や体験からでは想像もつかないようなお客さん相手にいい仕事をするためには、どうしても自分の枠(定規)を打ち破っていく必要がある。そのためには、なによりいろんなことに自分から気付いて、そして自分を変えていく必要があると思うんですよ。
「―――あのさ、塩やん。麻疹ってやったことある?」
「? ハイ……」
「んじゃ水疱瘡は?」
「やってませんけど……?」
「じゃこの患者に投薬すんのはムリか―――……」
「はぁ!?」
「なんですかソレ、関係ないじゃないですか。やったコトなきゃ投薬できないなんてそんなワケ…っ……あ……」
「―――ま、そーゆーコト☆」
主人公は、自分の知識や経験の少なさによって、他人の心を傷つけてしまったり、思いやりのない発言をしてしまったりする。けれどもこの主人公は、そうした失敗に誰よりも敏感に気付き(あるいは気付こうとし)、そして同じ失敗を繰り返さないように自分から変わっていこうとする。たとえ新米薬剤師さんだとしても、そこには自律したプロとしての一つの理想像があると思うんですよ。
「でももう、同じ轍は踏みませんから」
仕事上で出くわす様々なシチュエーションは、ちょっと物事の見方を変えるだけでぜんぜん違って見えるし、一見するとわがままなお客さんであったとしても、そこには当人なりの事情が存在する。そうした様々な人の心を思いやり、様々な人の事情を慮り、そしてうまく自分を変えていくこと、それは高度なヒューマンスキルに他ならないのですが、そうしたスキルが培われていく様子を描いた物語が本作品ではないかと思うんですね。
この作品に対する評価を読むと、薬剤という特殊な業界を扱っているので医療関係の仕事の人じゃないと楽しめないのでは、みたいな話も多いようなのですが、そこに描かれている姿はプロとしての理想像に他ならない。ある意味、薬剤に関する様々な小ネタはうんちくトークみたいなもので(笑)、仕事に対する姿勢そのものは、あらゆる専門技術職の人たちに共通する理想像だと思うんですよ。そういう意味で、この物語はもっと高く評価されていいと思うし、もっといろんな人に読んでみてもらいたい物語なんですよね。
# 私がびっくりするのは、こんなある意味『売れなさそうな』良作を連載(しかも不定期;)している
# コミックハイ!の雑誌としての懐の深さ、ですね。こどものじかんもコミックハイ!の連載ですが、
# こういう本当の意味での良作を愚直に取り扱ってくれる雑誌というのは、いまどきものすごく貴重じゃ
# ないかと思うんですよね。これからももっとこういう作品を取り扱って欲しいところです。
しかし新井葉月さんっておそらく自分とほぼ同い年ぐらいの方のはずなのですが、こういう物語を描けるというのはすごすぎるとしか言いようがなかったり。いやはや、とにかくびっくりするほど素敵な素晴らしい物語でした。業界関係者はもちろんのこと(笑)、一般の方々にも間違いなくオススメできる超良作。ぜひ手にとって読んでみて欲しい作品です。
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