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書評:東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

 そんなわけで、今日は結局 例大祭もスルーして自宅に引きこもって日長一日これを読んでみたり。



 「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」。昨年出た本ですが、すでに 160 万部を売るベストセラーで、夏からはドラマ化も予定されている有名な本。実は買ったのは数ヶ月前なんですが、かなり分厚い本ということもあってなかなか食指が動かず。で、今日読んでみたわけですが……やっぱり一日かかってしまった;。いやだって 400 ページ超だし、もともと活字はめっちゃ苦手なんですよ私;;。(← ラノベですらあっさり積み上がる;)

 どんな本かを(乱暴だけど)ひと言で言ってしまえば、母親が自分に向けてくれている愛情になかなか気付くことができなかった、ある一人の男の親不孝と親孝行の物語。著者リリー・フランキー氏(ちなみに 42 歳の独身男性らしい)の半生を淡々と語った本で、放蕩息子としか言いようのない自堕落な生活の末、母親がガンを煩ったことによって始めて日々の物事をリアルに感じ、かつて母親が自分に向けてくれていた愛情とこの世の理に気付いていく、というもの。

 形態としては長編小説ですが、自伝を含んだエッセイに近いもので、女性が読んだ場合と男性が読んだ場合とでは感想が変わってきそうな一冊。おそらく女性であれば、この著者の母親(中川 栄子さん)の、母としての在り方と我が子への無私の愛情の深さに感動するだろうし、男性であれば、著者であるリリー氏(中川 雅也さん)の姿に共感するのではないか、と。人によって生まれ育ちは全然違うだろうけれども、人間誰しも母親から生まれてくる。そして多くの人は母親から受けた愛情を共通的に持っているはずで、本書で語られるエピソードの数々の中に、自分の過去と重なるものを感じる人はきっと多いはず。決して優れた筆致とは言えない(調べてみたらこの人、推敲もしない書きっぱなしのようで、文章としては決してよいとは言えない)のですが、逆にそうであるが故の生々しさもあり、それが琴線に触れてくる作品だと思うんですよね。

 ノンフィクションのエッセイなので、あれこれツッコミを入れたり中身を細かく解説したりするのはあまりに野暮というもの。加えてこの本はベストセラーなので読んだことがあるという人も多いと思うので、今回は純粋なインプレをつらつらと書いてみたり。

 この本、巷では「泣ける本」と言われてる様子。……や、自分も泣いたけどさ(爆)。けれども本来こういう本って、泣ける話として、つまり物語として消費しちゃいけないものだと思うんですよね。一番大切なことは「気付くこと」であり、この本はそのきっかけを与えてくれる本、だと思うんですよ。

 例えば、「人間は誰しもいつか死ぬ。もしかしたら明日、交通事故で死ぬかもしれない。」ということは、誰しもが頭では理解している。けれども、明日死んだとしてもホントに後悔が残らない、と言えるかどうか? なるべく後悔せずに済むように、日々我々はいったい何をしているのか?

 自分の身内が死ぬ、母親が病気になる。それは誰にでも起きる当たり前でありきたりなことなのだけど、
 実際にその現実が自分の眼前に現れるまではリアリティを感じてはいなかった。
(p.228)

 いつまでもそこに居続けてくれるとか、まだ余裕があるとか、まだ時間があるとかいった根拠のない自信。我々の日々の身勝手な行動の多くは、そうした慢心から産まれやすい。けれども、いざ時計が動き始めたとき、あるいは突如何かが起こったときに、その起こったコトの大きさに大慌てしてしまう。……これって人間のどうしようもないサガみたいな部分でもあるんですよね。試験の直前になるまで勉強しない受験生しかり、出産上限年齢直前になって子供が欲しくなって慌てふためく女性しかり、仕事の忙しさにかまけて挨拶に行かなかった恩師の訃報を聞いて後悔する社会人しかり。どれもこれも、他人からすれば「そんなの前から分かってたでしょ?」という類のものだけど、人間の惰性って怖いもので、ホントににっちもさっちもいかなくなるまでそのことに気付けない or 気付いていても行動に変えられないことが多い、と思うんですよ。

 でも、誰かが死ぬ物語に感動したり共感したりできるのに、身近な人の死を思いやることができないとしたら、それほど悲しいことはないじゃないですか。そういう意味で、ゲームにしろこの本にしろ、こういう物語に接したときには何らかの形で自分を振り返ったり考えたりするきっかけにするべきじゃないか、と思うんですよね。後悔先に立たず、とは言いますが、出来る限り後悔なんかしたくないじゃないですか。それなりの覚悟というのは、いつでもしていなくちゃいけないことなんじゃないか、と思うんですよ。(や、それでも後悔は残ってしまうものですけどね。)

 アメリカでは 9.11 テロをきっかけに、家族を大切にする人が増えたという話を聞いたことがありますが、そういう『気付き』を与えてくれる『きっかけ』はいろんなところにあるはず。この本を読んで『感動』するだけで終わってしまったとしたら、それはちょっとというかかなり違うんじゃないかと思う。もちろん、なすべきことややるべきことに気付いたからといってそれが出来るとは限らないし、なにもかもがうまく行くわけじゃないけれど、こういう本がマスメディアによって『消費される物語』に仕立て上げられてしまったとしたら、それは悲しい話のように思えます。

 さすがに私の場合はこの本で初めて両親の愛情に気付いた……とかいうことはないですが;、その昔、教え子の女の子から、自分の母親が脳梗塞で倒れてしまったという話を聞いてホントにショックを受けたことがあります。その子は昔から母親思いの子だったのでなおさらショックで、それがきっかけで両親 & 妹の家族 4 人でラスベガスに行ってきたんですよねぇ……。「親孝行したいときには親はなし」という言葉をこの時ほど強く感じたことはなかったりします。

# ……といいながら、現在の自分、なにげにめっちゃ親不孝してるわけですが;。
# すいません放蕩息子で;;。

 どれだけ仕事で成功するよりも、ちゃんとした家庭を持って、
 家族を幸せにすることの方が数段難しいのだと、言った。
(p.32)

 や、家族とか家庭っていろいろな形があるんでしょうけれども、今の時代、『普通』(普通の家庭、普通の生き方、普通の幸せ、etc.)というのが最も手に入れるのが大変で、最も価値のあるものなんじゃないか、と。母親の栄子さんがリリー氏に宛てた遺書を読んで、なおさらそんなことを思ったり。なんというか、いろいろな意味で考えさせられる一冊ですね。いい本でした。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006/5/22 00:50 | その他

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コメント

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投稿者 age : 2012年4月26日 07:14

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投稿者 恵里佳 : 2012年7月24日 14:55

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