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書評:NANA 6 〜 10 巻

 というわけで今日はこの書評。っつーかしまったあろうことか平日に一気に 5 冊読み。無茶ありすぎ状態;。



 で、感想をひと言。凄い。いや一気読みに駆り立てるだけの内容でもあったけど、ここまで容赦ない徹底した物語を作り上げられると、ただただ凄いとしか言いようがない。前回のエントリの 1 〜 5 巻の感想で、自分を愛してくれる人は欲しいけれども他人を愛することはできないという重度の恋愛病の奈々が、他人を愛するということをどうやって知っていくのかが物語の焦点になるだろう、と読んではいたのですが、こんな話になるとは想定していなかったというのが正直なところ。

# や、結構ネタバレが致命的にもなるかもしれないので、読む気がある方は避けた方がいいかもです。

 5 巻〜 8 巻あたりでは、タクミとノブとの間で揺れ動いていく物語のストーリーラインが珠玉の出来。や、あらすじでまとめるとロクな話じゃないんですけどね。だってざっとまとめるとこんな感じ。

・5 巻のラストでは発情モードの奈々の心の隙間にトラネスのタクミが付け入り、お持ち帰りされて食われてしまう。
・しかし奈々はノブに本心から愛されて、彼に鞍替えしようとする。
・けれども彼女はタクミと決別することができず、タクミを拒めずに関係を切ることができない。
・しかしどう考えてもタクミと一緒にいて、自分が幸せになれるとは思えない。奈々はあれこれ考え出す。
・その関係を知りながらも、ノブは奈々に自分の気持ちを伝える。
・奈々はきっとこれが自分の未来の幸せに違いないと、タクミとの関係を切ってノブと恋人になろうとする。
・ノブと付き合うようになって、初めて奈々は他人をいとおしく思う気持ちや自分の過去の過ちを理解し始める。
・が、ほどなく妊娠が発覚。しかも状況的に明らかにタクミの子;。奈々とノブとの仲が破局する。

 もうこの子はいったいどこまで落ちれば気が済むんだろう状態で、徹底して奈々を貶めていくそのストーリーラインはやややりすぎ感もあるほど。彼女はノブと恋人になって、初めて他人をいとおしく思う気持ちを理解し始める。

 でも……なんだろうこの気分……なんか……すっごく愛しいかも。
 優しくしてあげたい。そばにいてあげたい。
 力になってあげたい。抱きしめてあげたい。
 彼が望む、全ての事をしてあげたい。
 今まであたしは男の人に、それをしてもらう事しか考えてなかった。
 それが大きな間違いだったのかもしれないな。


 にもかかわらず、タクミの子を身篭ってしまうことですべてが破綻する、という展開がとにかく上手い。

「奈々……子供ができたってほんと?
 なあ、ちゃんとおまえの口から聞きてえんだ。おれの子かもしれないし隠す事ねえだろ。
 おまえがタクミと切れたばっだったってのはおれだって知ってんだし。」
「ごめん……なさい……」
「なんで……謝るんだよ……切れてなかったのかよ、あいつと!
 弁解してくれよ……嘘でも……全部信じるから……」
「ごめんなさい……」


 特にこのシーンはとにかく強烈。多分、この子が本気で自分のこと、自分の生き方を反省したのはこれが初めてなんですよ。彼女はとにかく自分が一番かわいいから、絶対に自分のことで他人に本気で謝ったりなんてしない。ここまでどん底に落ちて、自分の大好きになった人の気持ちと想いを踏みにじって、裏切って、初めて彼女は自分の過ちに気付く。過去の過ちをすべて誤魔化してきた奈々が、自分の子供を身ごもることで、自分の身勝手な行動をついに誤魔化せなくなったんですよね。それはまさに大魔王の正義の鉄槌。

 奈々はせっかくの幸せもことごとく掴み損ねてしまうけれども、彼女が重度の恋愛病である以上、それはもうしょうがないんですよ。だからどちらかというと、奈々の場合は、逆に妊娠などによってどうやっても逃げられない状況を作った方が、かえって彼女の良い面が出る。そうでもしなければ、彼女は恋愛ゲームから足を洗って現実に還ることができないから。

 彼女は妊娠というどうにも逃げようのない状況に追い込まれ、白金台の豪邸で何不自由のない生活を送りながらも心が満たされない日々を送り始める、そしてもうタクミと生きていくしかないんだと決めたときに、初めて恋愛ゲームを卒業して、現実を受け容れるんですよね。

「ねえ淳ちゃん、見て。きれいな月が出てるよ。
 ……あたしね、淳ちゃん。あの満月の夜が、たぶん人生で一番幸せなひとときだったよ。
 欲しいものが全部手に入ったような気がして、夢と希望で胸がいっぱいになって、
 未来がキラキラ輝いて見えたの。
 あんな翳りのない幸せに満たされる事はきっともう二度とないよ。


 すっ、凄い。
 いやこんな神みたいな珠玉のセリフをここで味わえるとは全く思いも寄らず。っつーか泣ける(涙)。奈々もようやく気付けたのか、と。夢見ることをやめられなかった奈々がようやく現実をありのままに受け容れる。それは妥協とか諦観と呼ばれることもあるかもしれないけれども、奈々の場合にはここまで追い込まれなければ現実を受け容れることができなかった。

# といっても、どう見ても世間的には玉の輿の勝ち組なわけですがw。

 でも、作中でちらっと書かれてるんですが、実は奈々の場合、ホントはノブみたいなタイプじゃなくてタクミみたいなタイプの人じゃないと絶対に心からは好きになれないんですよねぇ。彼女は追い詰められて、泣きながら震える声で淳ちゃんに告白する。

「淳ちゃん……あたし……べつに子供の為に無理に結婚するわけじゃないんだよ……
 あたしほんとは……タクミの事好きなの……」
分かってるって……良かったよ、自覚してくれて。
「なんで……? あたしノブの事が好きだったはずなのに……」
「気のせいだよ。あんたは自分にチヤホヤしてくれる男なら誰でも良かったんだよ。
「違うもん!」
「ノブにすまないって気持ちも分かるけど、お金の為とか子供の為とか割り切るよりずっと健全だよ?」
「でも……割り切ってる方が楽だったし……
 なんであたしが自分から好きになる人は、浅野さんとかタクミとか、自己中でろくでもない男ばっかりなの?
 なんで章司とかノブとか、あたしを大切にしてくれる人を大切に出来ないの……?
 だいたい章司に愛想つかされたりしなきゃきっとずっと平和でそれが一番よかったのに……
 こんなんじゃあたし一生幸せになんかなれないよ。」


 淳ちゃん、あなたあまりにも的確すぎるよ状態;;。彼女がノブを好きになったのは、一種の打算(理性による恋愛)なんですね。それ自体は大きな問題ではないけれど、彼女は相手をありのままに見ることができないから、深めていく愛情を構築できない。だから、ノブが自分に向けてくれる愛情を心地よく思うけれど、その後に彼を知っていくことで彼を本気で好きになっていくことができない。彼女が好きなのは、自分に向けてくれている『愛情』の部分だけであって、相手そのものを深く愛していくことができないし、自分に向けてくれている『愛情』に飽きると放置プレイになる(← これは章司のケース;)。

 にもかかわらずなぜあんなろくでもないタクミに惚れるのかといえば、理由は簡単、奈々が胸キュン(死語^^)するのは彼みたいなタイプだから。けれども相手がろくでもない人であることもよく分かっていて、どんなに金持ちでもこんなひどい男に惚れるなんて最低女のすることだとも思っている。でも自分はいい子でいたい。だから理性がブレーキをかける。(← 最低の「いい子ちゃんでいたい子」病ですよこれ;)

 中途半端な理性と、抗うことができない本能。
 本能から好きになれない相手にときめくことはできても愛情を深めていくことはできない、まさに重度の恋愛体質。

 ……そりゃ一生幸せになれなくても当然でしょう;;。

 結局、彼女に必要なものは、『適度なところで諦める』ことなんですよね。ただ、恋愛で諦めるのか、結婚生活で諦めるのか。彼女のような恋愛体質の場合は、おそらく恋愛で諦めるよりも結婚生活で諦めた方がよいのかも。なぜなら、恋愛で諦めてしまうと彼女は次のステージに進むことができないけれども、恋愛で諦めなければ次のステージに進むことができるから。

「それは嫌! あたしは自分の家庭を持ちたいの!
 何があろうとタクミと子供と 3 人で幸せを築いて行くって決めたんだから!」


 これもいいセリフですね。状況が人を変えていく、それを見事に描いている珠玉のシーンだったんじゃないか、と。

 でもこれ、今どきの女の子には絶対にウケるだろうと思うんですよね。というかどちらかというとこの手の物語が嫌いな私ですら情にほだされるのだから、自分がこの上なくかわいい今どきの女の子が、こんなにも『不幸』な奈々のことがかわいくないはずがない

 や、傷ついても傷ついても「全力で愛して愛されたい」という思いを決して諦めない純粋さと無謀さは、確かに女性にとっての至上命題でしょう。そして誰にも犯されえない自己撞着を持つがゆえの美しさにナナが惹かれるのも無理はない。けれどもあらゆる方面で指摘されているように、その先の物語を紡いでいくことができないタイプの恋愛、いわゆるモテブーム自体、すでに多方面で指摘されているように「恋愛してなきゃ女じゃない」という負け犬を食い物にする女性誌によって煽られたムーブメント。分かっていてもやめられない恋愛中毒、そのツケがこんな形でしか清算できない奈々の姿を見て、同情の余地は全くないけれども、同情の念はやっぱり湧きますね。純粋に、あ゛ー、かわいそうだなぁ、と。……ま、同情するだけですが(ぉ)。

 10 巻以降、話の焦点はナナの方に移っていってますが、まだ流産という飛び道具が残っているだけに、元の木阿弥になるという構図も十二分に考えられるんですよね;。や、想像の遥か斜め上を行ってくれてるので全く油断ならないわけですが(← っつーか奈々は絶対に懲りないキャラだ;)、11 巻以降でそういう展開になっていないことを祈ろう....;

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006/8/23 00:43 | 3.アニメ&コミックス

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コメント

お世話になります。とても良い記事ですね。

投稿者 グッチ 折り財布 : 2012年11月10日 07:15

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