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「でも、もういいんだ」
本当にいい訳ではないけれど。
「使い魔のボクがこんなことを願うなんて、笑ってしまうけどね」
人間は弱くもろくて壊れ物のようだ。その中身は複雑怪奇でなにもわからない。でも。
「幸せに、なって、欲しいんだ」
―――というわけで今日はこちらのインプレを一つ。
えーと、MAMA という作品。ミミズクと夜の王という作品を書かれた紅玉いづきさんの新刊で、最初に見たときにはイラストの雰囲気などがどことなく DEATH NOTE などを彷彿とさせたのですが、中身はといえば、オーソドックスすぎるほどにオーソドックスなセカイ系の物語。海沿いの王国ガーダルシアの、魔術師の血統サルバドールに生まれた少女トト。彼女は生まれつき魔術の才に恵まれなかったものの、ふとしたきっかけから、片耳を失うかわりに強大な魔力を持つ魔物ホーイチを手に入れることになる。そんな少女トトと、魔物ホーイチの半生を描いたお話、それがこの MAMA という作品。
……なのですが、これがなんとも筆舌に尽くしがたい、非常に不思議な作品なんですよ。
正直なところ、ストーリー自体も最後の落としどころも非常にオーソドックスだし、文章を読んでいると、やや散文的なところもあって、いわゆるライトノベルにあるような「小ぎれいさ」がない。にもかかわらず、読んでいると驚くほど物語に引き込まれるんですよ。孤独な人喰いの魔物のママになろうとした少女トト。サルバドールの落ちこぼれから這い上がってガーダルシアの外交官になり、ついには天国の耳(ヘブンズイヤー、いわゆる地獄耳の逆^^)と呼ばれるまでになるのですが、そこにいわゆる「王子様」役であるゼクンが現れる。要するに(ネタバレ)、トトがホーイチに向ける感情は、文字通りママ(母親)としての感情(少し歪んでるけど;)で、ゼクンに向ける感情は恋愛感情なのですが、それらが時系列的に逆になっている(普通は恋愛があり、母親があって、息子に向ける愛情が発生する)ために物語的な歪み(ねじれ)が発生している。あの結末は、ホーイチが転生することで、おさまりの良いあるべき形へと解消される物語なんですよね。
そう考えると、あのエンディングはまさに見事なハッピーエンド、と言えるでしょうが、そんなちまちましたことを考えなくても、トトの深い感情の片鱗に触れるだけで心を揺り動かされる物語になっているのがさすがなんですよ。散文的でありながら、トトやホーイチたちの感情が心に直接沁み入ってくるものがある。前作のミミズクもそんな側面がありましたが、本作は前作以上、という印象もあります。加えて、ティーランを始めとするサブキャラがまたいい味を出してますね。もう一つの物語 "AND" もまたミレイニアの深い愛情が素晴らしい。
前作もかなりセカイ系なお話でしたが、本作もものすごーくセカイ系なお話。けれども読後感として残る感情は、確かにこの作品が名作であると確信させるに足るものがあります。前作はちょっと人を選ぶかなと思いましたが、本作は割と読みやすくなっているのでいろんな方にお勧めしたい物語ですね。
# というわけで、Web 拍手で教えてくださった方、ありがとです〜^^。
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どもです。
私も先日読み終えました。
正直言って、ありきたりといえばそうですし、文章力や構成力が
ことさらにある訳でもない。それでも琴線に触れてくるのが、
この作者さんの魅力ですよね。「自身の作品」を愛せてるがゆえの
事なのかなー、と勝手に思ったりしてます。
電撃大賞作家の割りに、2作目がなかなか出ていなかったので心配してましたが、
今後も自分が納得できる作品を出していってもらえると嬉しいですね。
(この業界はそれが難しくもあるのですが……)
今月は好きな作家作品が多く出てる(出る)ので気合を入れねば……
ではでは。
投稿者 にくやさいいため : 2008年4月10日 01:39
> それでも琴線に触れてくるのが、この作者さんの魅力ですよね。
私も同感です。巻末のあとがきにも書かれていましたが、結局のところ、
作品世界への愛情があるからこそ、琴線に触れることができるんじゃないか、
という気がします。
遅筆でも構わないので、いい作品をこれからも書き続けて欲しいですね。
投稿者 まちばりあかね☆ : 2008年4月17日 15:53