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書評:ノベルゲームのシナリオ作成技法(★×5)

 そんなわけで国外からの投入エントリの最後は書評を一つ。たまたまヨドバシの書籍コーナーで見かけたこの本を購入して読んでみたり。



 や、CLANNAD のことみシナリオや planetarian などを書かれた涼元氏による、ノベルゲームのシナリオライターのお仕事に関する How-to 本。もちろん私はその手の業界の人ではないのですが、ちょっと興味を覚えてざっと読んでみたりしたのですが、これがめちゃめちゃ面白い。例えばしょっぱなから一刀両断。

 いきなり話の腰を折って申し訳ないのですが、これだけは言わせてください。
 シナリオライターって、そんなにいい商売ではないです。


 ……まあこの程度は序の口で、次から次へと出てくる我々の儚い夢を奪う解説の数々w。

・恋愛ゲームのキャラは愛玩動物であれ。
・主人公は、「受け手が共感できる等身大の主人公」「受け手の理想となるあこがれの主人公」を兼ねるのが望ましい。
・恋愛ノベルゲーの最凶最悪の大惨事は、『ヒロインの名前が母親とモロカブリ』である。
・人間は状況に応じて『泣くように出来ている』のだから、単に泣きゲーを作る『だけ』なら、そう難しくはない。

 うーわー、言っちゃったよおいみたいな感じですが^^、こんな内情暴露みたいなぶっちゃけ解説がある半面、ものすごく理にかなった企画やシナリオライティングのテクニックに関する解説もある。

・大きな嘘をつくために、小さなホントを積み重ねるのが創作の基本。
・リアリティーが買えるなら、金に糸目をつけるな。
・イケてる企画か自信が持てない場合の簡単なチェック方法は、作品を一言で言い表せるかどうか。
・声優さんとのイメージすり合わせに時間をかける。

 そしてなによりこの本で感心したのは、細かい技法・テクニックよりも前に、まず理念みたいなところをきっちりと説明しているところ。当たり前ですが、漫画とかアニメ、ゲームといった業界は遊びの延長線で入っていけ(そうに思え)る側面があるし、なんとなく輝いてみえる世界であるが故に、「夢を見てしまう」業界でもある。けれども現実はそう甘くはないわけで、きちんとそういう点についても読者に問いかける内容になっているのが良い。それは業界の先輩として最も重要なアドバイスでしょう。

 いかがでしょう? 面白そうですか? それとも読むだけでうんざりしましたか?
 どちらにせよ、これだけは覚えておいてほしいです。
 ノベルゲームというものは、作り始めてすぐにできるものではありません。
 残りの人生の何十分の一かを、一本のゲームに費やすことができるでしょうか?
 プロを目指そうという方は、まずこの点をじっくりと考えてみてください。


 や、私は IT 業界のコンピュータシステム開発を知ってるし、いわゆる書籍も書いたことがあるのですが、ノベルゲームの開発って業界は違えど通じるものがたくさんある。良いものを作るために不要な部分は惜しまずに切り捨てるだとか、デバッガと開発者の関係だとか、仕様管理や予算管理の基本だとか、結局モノ作りやモノ書きの根幹はどの業界であっても結構近いんじゃないか、と思えます。(涼元氏自身、もともとノベルゲーム業界の人ではなくて、最初は普通の小説家だったわけですが。) 細かいもの書きとしてのテクニックも自分の仕事に吸収できるところがあったりと、なかなか読んでいて面白かったです。……というか勉強になるので付箋貼り付けながら読んでしまった;。最後の一節は、私も身に覚えがあるし絶対に肝に銘じるべきことだな、と思ったので備忘録に。

 昔、小説を書いていた頃、先輩の作家さんから聞いた言葉があります。

 必要なのは、根拠のない自信と、悪評を聞き流す耳

 『根拠のない自信』の方は、創作を志すような者なら大抵売るほど持っているから大丈夫でしょう。
 問題は、『悪評を聞き流す耳』の方です。
 褒められれば嬉しいし、貶されれば悔しい。これも当たり前です。ですが褒め言葉より悪口の方が10倍……いや、100倍はこたえるものです。
 そしてなお悪いことに、無反応はそのさらに1000倍は饒舌と来ています。

 全部、聞こえない振りをしましょう。ですが、褒め言葉だけは聞きましょう。特に、どこがいいかを詳しく褒めてくれる言葉は、何遍でも聞きましょう。
 そして聞こえない振りをしつつも、それでも聞こえてくる聞きたくない批評だけは、悔しいからそれとなく覚えておきましょう。
 全ては次の作品のために、です。


 この本、もともと涼元氏がよく「シナリオライターになりたいんですけど」という相談を受けることもあって、意外にノウハウや How-to が整理されていない & 公開されていないこの業界のノウハウをある程度明かそうとしたものみたいですが、こういう本はめちゃめちゃ貴重ですね。一般的にこういうネタは専門性も高いノウハウなので門外不出のモノとして OJT 形式で親方から弟子へと引き継がれるものだと思うんですが、これらをきちんと整理して一般に流布するという行為は、業界そのもののレベルの底上げという観点から見たときにものすごく貴重なんですよ。こういうものって、自分のノウハウが失われることを心配して『隠して』しまうものですが、むしろ積極的にオープンにしようとするその姿勢には非常に感心します。また機会があれば是非こうした書籍を書いてもらいたいものです。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006/12/9 00:12 | 4.雑学&雑感

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コメント

ZUMOさんはもともと小説家だからねぇ
自分の創作技法をHOWTO本にまとめる小説家と脚本家は多いけど(煮詰まったとき、自分で読み返してインスピレーションをかき立てるタイプが多いらしい)けどゲーム、アニメではあまりいないね(ヴィジュアル重視なので言葉に纏めるのが上手くないせいではないかと)

投稿者 LaughCat : 2006年12月9日 23:18

ハリウッドなんかだとスクリプティングのノウハウとかがあって、Workbook の設問を埋めていくだけでできあがり、なんていうものもあるらしいです。それもそれでどうか、という気もしますが;、ノウハウの蓄積と定型化が繰り返されていけばそういうパターン化もある程度は可能なんてじょうね。

涼元さんにはいろんな功罪があると思いますが(というかこの本について言えば涼元さんがそんなこと言っていいのか?みたいなものもある;)、少なくともゲーム業界に小説家の視点を持ち込んだところは大きいのではないか、とは思います。Kanon にはかなりのアラがありますが、AIR だとかなり良くなってますしね。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006年12月22日 03:39

お世話になります。とても良い記事ですね。

投稿者 グッチ 通販 : 2012年11月10日 16:01

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