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俺は怖くて……進んで綾を忘れるのも……
けど思い出すのもつらくて……
なんであいつのこと忘れないまま、なんで前に行けんだよ……
というわけで今日はこちらのインプレをひとつ。
アニメはとっくに終了した、しにがみのバラッド。のコミックス版の第 3 巻。実はこの作品、原作(ラノベ)は未読でアニメとコミックスしか見ていないのですが、このコミックスがなかなかにすばらしい出来。前巻も見事な話でしたが、第 3 巻もこれまた素晴らしい。短編集が 4 本集まっていて、中でも連編になっている 2 本目と 3 本目がかなりの秀作ではないかと思ったり。
白い死神モモと使い魔の黒猫ダニエルの、哀しくて優しいストーリー。今回のお話は、再婚した両親の連れ子同士として知り合った、惺(さとる)と、綾・紗耶の双子姉妹の恋愛話。綾が惺のことを好きだと知って紗耶は身を引くものの、綾は肉腫に冒され命を奪われてしまう。そして綾がいなくなった喪失感から惺は変貌してしまう。振り返ることもできず、そして進むこともできず。そしてそんな惺のことを思いながらも体当たりでぶつかっていくことのできない紗耶。
……本当は知ってた。
惺の傷を深くしてるのは、綾と同じ顔の自分。
わたしを見るたび、綾を思い出す。
楽しかったこと。
悲しかったこと。
わたしの全部が、綾がいないことを感じさせるだけ。
「こんな私に何かなんて……できるわけない……」
でも、そんな紗耶に対峙したモモが語る言葉。
「……本当に?
あなた……もう何もできない?」
記憶という名の足枷。でも今もなお生きているという現実。死を描くことによって対極にある生を描き出そうという手法は確かによくあるのですが、それでもそこに命の力強さを感じられる物語というのはそんなに多いわけではない。この作品の良さは、死神モモの物語を通して、哀しさと優しさを併せ持った「生きること」を描き出している点。主義主張を押し付けてくることなく、淡々と描かれる繊細な物語は相変わらず非常に素晴らしいです。
# この作品、花ゆめでコミックス化されているわけですが、これが見事にヒットした形ですね。
# 女性作家さんらしい繊細な描写が琴線に触れてくるものがあって非常にいいです。
しかし惜しむらくは作品がこの巻で終了してしまったこと。オムニバス形式の話なので継続できないこともなかったのでしょうが、もともとアニメタイアップから来ている企画なだけに続けることはきっと難しかったんでしょう。けれどもこのコミックス版は一見の価値ある作品であることは確か。特に予備知識なく読めるので、興味のある方にはぜひ手を伸ばしてほしいです。
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