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量より質

 たまたま Web をふらついていたら FIFTH EDITION さんという blog でこんなエントリを見かけたり。えーと、まずはリンク先の文章を一読してみてください。(できればコメントまで含めて。) 興味深いエントリなので、ざっくりと私見を書いてみたり。

 この議論って、おそらく漫画業界だけの話じゃないと思うんですよ。私が属するコンピュータ業界はもちろんのこと、家電量販店や外食産業などなど、すべての業界に存在する、いわば『経営の苦しみ』そのものなんじゃないかと。

 というのは、お客様である読み手の側の要求水準がどんどん上がる(作画にしろストーリーにしろ)のは当たり前のことで、例えば外食産業なら「より安く、より美味く」という要求に常に晒され続けている。少なくともそうしたお客様の要求水準のエスカレートに追随すること、さらにそれを超えていくことができなければ、その仕事の『価値』を維持することはできない。リンク先のエントリでは作画にかかるコストが膨大になりすぎている現状を問題だと指摘しているのですが、私はそれって『今現在起きている』表面的な問題の一つに過ぎないような気がするんですよね。

 例えばアニメ業界の場合にも、同じような問題に突き当たり、動画や原画をコストの安い海外へ切り出すことで生き凌いできた。けれどもそれでもコスト下げ要求は止まらず、深夜時間枠やセル DVD などの活用でなんとか生き凌いでいる。でもそれで終わりかというと、そんなことは決してない。単なる作画コストの問題だけでなく、求められる企画の斬新さ、短期間での企画立案〜制作、マーケティングなど、あらゆる部分で際限のない改善をこれからも求め続けられる。すなわち、『立ち止まったら負け』。それはある意味、経営の苦しみでしかないんじゃなかろうか、と。

 おそらく他の業界に比べた場合の漫画業界の問題は、漫画家個人に求められる資質があまりにもマルチタレントであるということ、そして基本的には『町工場』的な少数精鋭での作業が求められる分、業界全体としてのシステム化が進みにくいということ、すなわち漫画業界の特殊性によるものなんじゃないかと思います。

 例えばアニメ業界では、監督、シリーズ構成、脚本、原画、動画、音響、撮影、特殊効果、演出などにタスクが細分化されているし、コンピュータ業界のシステム開発でも、同じように業務設計者やアプリケーション設計者、プログラマ、テスターなどの分業が進んでいる。けれども、それは大人数での制作をより効率的に進めるための必然でもある。漫画業界だけじゃないと思いますが、少人数でのゲリラ的な制作で『なんとかなってしまう』業界って、システム化の取り組みが遅れてしまい、力技で解決しちゃうケースが多い(=問題を先送りにする)んじゃないかと思うんですよ。で、結果的に『どうにもならなくなった』頃に問題が噴出してきて途方に暮れてしまう。それが今の状況なのかな、という気がします。

 そういう視点で見ると、多分この話って漫画業界に限った話じゃない。確かに漫画業界は他の業界に比べて厳しい状況に立たされているのでしょうが、大なり小なり似たような話(=問題を先送りにすること)はよくあるんじゃないか、と。そしてまた、『どうにもならなくなった』頃にそのことに気付いても手遅れになっちゃう、と思うんですよね。

 私が属するコンピュータ業界にしたって、ホントに怖いですよー。だって、ひと昔前には一人月 100 万円といわれていたプログラマの外注単価は、今や 30〜40 万円程度にまで下落。いやまあ確かに当たり前で、技術は進化してるのにプログラマのスキルはろくに進化してない。この厳しい経営環境の中で単価が下落するのもそりゃ無理がない、というもの。この状況で今の給料を維持したければ、『量』ではなく『質』を高めるために鍛錬を続けなきゃどうにもならないんですよね;。それでもいずれ立ち行かなくなることもあるんでしょうが、そのときは好きだろうがなんだろうが、もうその仕事をやめざるを得ない。良くも悪くも経済原理にかなうものはやっぱりないわけで;。

 レッドオーシャンに巻き込まれないようにするには、とにもかくにも仕事の『質』を高めること、が大切なんでしょうね。物量に頼る方策では無理がある、というのはいろんな業種・業界が証明してくれているわけですし;。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006/1/12 00:25 | 4.雑学&雑感

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  【1970年代。高度成長期の真っ只中。日本人が働きバチと言われた時代】 うちの父親によれば、この時期、毎日帰りが遅く、終電で帰っていたそうだ。しかし、なぜそんなに遅くなるかというと、会社が終わって...

「気づき」ノート : 2006年1月30日 00:23


コメント

おっしゃる通りでしょう。
世の中の大概のビジネスの回し方は、30年前と今ではまるで
様変わりしているでしょうが、漫画業界はある側面では変わってなかったのでしょう。
結果、負担は漫画家に押し付けられる形になったと。

私は、普通の労働基準法を出版社に当てはめ、連載する漫画家に対しては
短期的な雇用契約の形とし、一種の管理責任を負わせればいいと思うのですが。
短期契約なら入れ替え可能性が確保できるし、その機関は
それなりの保証をするという事で。

企業の役割の一つには、生活水準の下限の保証という面もありますからね。
出版社の規模に応じて、普通の会社と同じように段階的な義務を
当てはめれば良い話かと。芸能界なども同じですね。

最終的には、漫画家は賃金の安い国に滞在して現地雇用のアシスタントを
雇うような方向なのでしょうが、言語の壁は厳しいですね。
介護問題などともかぶるような気がします。

投稿者 夏のこたつ : 2006年1月12日 01:52

そのうち真面目なエントリ書くつもりですが(実はリアルマイシスターとも Messenger で大議論に;)、
そもそも漫画家に対して一般的な企業論理って当てはまらないと思うんですよ。

理由は簡単で、出版社が企業として守る雇用は、担当であったり編集であったりするから。
極端な言い方すれば、出版社にとって漫画家って、看板作家でもない限りは短期契約の派遣さんとか
バイトさんに近い雇用形態だと思うんですよ。良し悪しはともかくとして。切ない話ですが;。

推測でモノを書くのもアレですが、思うに、出版業界自体は構造改革が進んでいて、例えば漫画関係で
言えば担当さんの掛け持ちであるとか販管費削減とかいろいろやってるんじゃないか、と。
しかし、出版社は漫画家さんの面倒までは見てくれない。なぜって、『身内』じゃないから。

私も某大手出版社と仕事した経験がありますが、結構頭を抱えたくなりますよ、ホントに。
こっちの立場からすると、「おいおい随分都合いいこと言ってくれちゃいますねぇ」状態で、
やむなく複数社から見積もり取ってコンペしてもらうハメになりましたけど、それぐらいひどい。
確かに無理もなくて、今って出版業界全体が昔に比べて冷え込んでいるからでしょうが、その場合、
出版社が企業として守る雇用はまず『身内』になってやむをえない、と思うんですよ。
理屈としては、大企業が関連企業とか下請け企業にしわ寄せを押し付けるのと同じ構図、と。

結局、『自分の身を守るのは自分でしかない』という話、なんですけどね。
まあそれは漫画家だろうがパートだろうが派遣だろうが、それこそ正社員だろうが同じですが;。
企業という名の無機質な存在は、人を守ってはくれません。……と私は思ってます。

こたつさんのいう労働基準法当てはめは、そもそもパートなどの外注に頼る事で業績をむりくり
出している、今の日本の経済構造そのものの問題を改善しよう、という話だと思うんですが、
それがなかなかうまくいかないのはやっぱり「それどころじゃない」からでしょうねぇ;。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006年1月23日 01:51

最初に出版社が守る「正社員」が担当や編集であるというのは、まさにそうですね。またそういう人たちは、特殊な業界とはいえ、普通のサラリーマンに準じた扱いをすることもいささか容易なのでしょう。

もちろん本筋から言うと、個々の漫画家は個人事業主であって、大手取引先との交渉や契約条件は自己責任であるというのが大原則でしょう。問題は供給側が多すぎて過当競争になりやすいことでしょうか。そして供給側は年齢が若いこともあり、しばしば体力的に無理をします。中には未成年もいるので、ある程度の管理責任を何らかの形で社会的にプールせねばならないでしょう。それはやっぱり社会的に存在感の大きな組織が中心とならざるを得ないのではないでしょうか。

 世の中の通例として、社会的責任の大きい企業には大きな義務が課せられます。中にはNTT法のように、実質一企業を対象としたようなものもあります。これは原則論に立てば問題でも、ある程度は認めざるを得ないのではないかと思います。従業員数の多い企業に義務が多いように、出版数や流通数の多い出版社の義務を何らかの形で増やすしかないでしょうね。それで同人誌は自己責任、中小の部数の少ない出版社には少し緩めるくらい、ですか。過去に主要な出版社と契約をしたことのない個人事業主と契約する場合は、健康管理に関する一年間程度のモニターを義務付けるとか、例えばそんな方向性でしょうか。

投稿者 夏のこたつ : 2006年1月23日 21:17

あ゛〜、それはめっちゃ的確な表現ですね。それはその通りです。> 個人事業主

確かにこたつさんの指摘通り、過当競争になりやすいのは事実で、企業側から見れば
「めちゃめちゃ都合のいい」存在でしょうね。先日のメイド喫茶の話(メイド喫茶も
メイドさん希望の女の子がやたらと多いので買い手市場になってる)と同じ。
一歩間違うとフリーターなわけで、それを食い物にして成立している業界……というと
さすがに言いすぎですが、それに近いものがあるといっても過言じゃない気がします。

ただ、私はこたつさんの意見にはどちらかというと反対で、じゃあそういう人たちを
守るのが企業かというと、多分そんなことにはなり得ない、と思うんですよ。
例えば NTT 法にしても公務員にしても、経済論理には勝てないし、しわ寄せが他の
どこかに行く(それが国内の下請け企業なのか、それとも海外なのかはともかく)
カタチでは答えにはならないだろう、と。

現状問題なのは、若いうちにそうした『職業』(漫画家だって立派な職業の一つ)に
就くような人に対して、類稀なる自制心とか冷静な判断力がないと、企業や大人に
いいように食いつぶされるリスクがある、ということを、きちんと教え込むような
システムが全く存在していないこと、なんじゃないでしょうか。
まあ確かに学校制度にそんな過度な期待をするなという話もありますが、でも今の
現状って、よほど親に厳しく躾けられたとか、もともと頭がかなりいいとか、
そういった条件がないといいように社会に食われて終わってしまうんじゃないか、と。
そういう「現実」を教えずにゆとり教育が云々なんて……とか話が飛びそうなので
控えますが;、けど、漫画家になったはいいけどコンビニでバイト、とかいう話を
聞いたりすると(っつーかかつて聞いたことがある;)かなり切なくなりますよ。

当人がそれで納得してるかどうかは別問題ですが、若者とか他者を食い物にして
成立する社会とか企業ってどうよ? というのは分かるし、そこに規制があるべき、
というのも同感ですが、果たしてそれは実効性のある対策なのか? というところが
私にはピンと来ません。うーん。

……っていうかまとまりないな、これ;。とりあえず書きこんでおくテスト;。

投稿者 まちばりあかね☆ : 2006年1月24日 02:04

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