2003年 ネタバレなしゲームインプレッション


 このページは、私が2003年にプレイしたゲームに関するネタバレなしのゲームインプレです。ネタバレありのゲームインプレに関してはインデックスあるいはネタバレなしのゲームインプレから飛ぶことができます。なお、直リンクから飛ばれてきた方々はトップページはこちらになります。よろしければどうぞお立ち寄りください。

※最近、インプレ整理のための時間があまり取れずにメモ書きのようになっているものもありますが、ご了承の上お読み頂ければ幸いです。

インデックス

※リンクが貼られていないものはゲームインプレを記述していないものです。また、このページ内で一部ネタバレを含むものについては白文字反転をしています。

ゲームタイトル メーカ ハード インプレ お気に入り度
MELTY BLOOD 渡辺製作所 / TYPE-MOON Windows ネタバレなし ★★★★★
ヤミと帽子と本の旅人 ROOT Windows ネタバレなし
モエかん ケロQ Windows ネタバレあり ★★
東方紅魔郷 上海アリス幻樂団 Windows ネタバレなし ★★★
SNOW Studio Mebius Windows ネタバレあり ★★★
斬魔大聖デモンベイン nitro+ Windows ネタバレなし ★★
逆転裁判 (1 & 2) CAPCOM GBA ネタバレなし ★★★★
朱 - Aka - ねこねこソフト Windows ネタバレあり ★★
NEED FOR SPEED - HOT PURSUIT 2 EA SPORTS Windows ネタバレなし ★★★
東方妖々夢 上海アリス幻樂団 Windows ネタバレなし ★★★★★
ギャラクシーエンジェル Moonlit Lovers ブロッコリー Windows ネタバレなし ★★
魔女っ娘ア・ラ・モード F&C FC01 Windows ネタバレなし ★★
Ys VI 〜ナピシュテムの匣〜 日本ファルコム Windows ネタバレなし ★★
CROSS†CHANNEL FlyingShine Windows ネタバレあり ★★★★

MELTY BLOOD

 今から思えば、誰がこんなゲームが出ると予想したでしょうか? MELTY BLOOD、まさに今の同人ゲーム界の二大巨匠が手を組んで作り上げた本作品は市販ゲームを圧倒するクォリティを持った名作であると言って差し支えないと思います。

■ 格闘ゲームとしての MELTY BLOOD

 格闘ゲームについてそれほど造詣があるわけではないので深い理論は分かりませんが、いずれにせよビギナーもマニアもそれなりに楽しめるシステムに仕上がっているのはおそらく間違いないでしょう。もはやアーケードの格闘ゲームはシステムそのものの複雑性もあって素人では手が出せない領域に入り込んでいますが、渡辺製作所のゲームは素人でもそれなりに爽快に遊べるように設計されているところが見事です。
 全体として特筆すべきポイントはやはり多彩なキャラとその滑らかな動き、そして派手な演出でしょう。ドットがやや粗いとはいえその動きは市販ゲームと遜色ないクォリティと言ってよいと思います。総計 1 万枚のキャラクターアニメーションはさすがに伊達ではないです。それにしても翡翠の裏必殺技は最高(^^;)。

■ ノベルゲームとしての MELTY BLOOD

 TYPE-MOON の奈須氏が直接ノベルパートを仕上げたというのはやはり非常に大きいところです。ゲームの中に組み込むものとしては重すぎず軽すぎずの見事なノベル。しかも単なる二次創作的なモノに留まらず、しっかりと笑いあり、深い洞察ありのシナリオに仕上げているのはさすがとしか言いようがありません。ダライアス方式で分岐しつつもきちんと物語となっているその構成力、そして志貴の直視の能力に対するシオンの予測計算能力というネタの取り方の上手さ。やはり、才ある人には何を書かせてもその力を見事に発揮できるのだということをまざまざと見せ付けてくれます。
 それにしても "G" には大笑い。こういう同人らしいシャレっけもまたたまりません。

 まあとどのつまり、格闘ゲームとしての最高峰同人サークルと、ノベルゲームとしての最高峰同人サークルが手を組んで、良いゲームができないはずがない(^^;)のですが、この両サークルの凄いところは、なんといっても同人というところに甘えることなく、ユーザの期待を上回る作品を出し続け、進化している点にあると言えるでしょう。例えば月姫は(分量的な問題もあったとはいえ)グラフィックの塗りの甘さ、あるいはパブレであればキャラの大きさや動きの粗さなど、まだ市販ゲームに見劣りする部分もありましたが、ユーザの期待にきっちりと応えた本作品をリリースしてきたのはやはり凄まじいところです。確かに値段的にもアリスの廉価版ソフトを上回るところまで来たとはいえ(\3,000)、そのボリュームやクォリティ、すなわちコストパフォーマンスは十二分に価格に見合うもの、いやむしろ安いといってもいいぐらいでしょう。

 サポート体制や流通経路としての入手のしやすさなど、同人ゲームが市販ゲームに劣る点は数々ありますし、また現時点ではまだ同人ゲームとして単体で食っていけるレベルに達しているところは数サークルに過ぎません。しかしもともとユーザのパイの少ないゲーム業界でもインディーズブランドが成立するということを示してみせた TYPE-MOON や渡辺製作所の功績はとてつもなく大きいものです。特にこの同人市場はユーザが本当に良いもの、面白いものをピラニアのごとく求めるという意味においては、フォーマット依存体質になっている一般市場に比べてよほど健全な力学が働いているような印象も受けますし、逆に一般市場においても(様々な事情があるとはいえ)マブラヴがソフ倫を通さずに発売を決定するなどの微妙な動きも見られます。TYPE-MOON の次回作となる Fate/stay night など、果たして今後同人ゲーム市場がどのような展開を見せていくのか、またその中で TYPE-MOON や渡辺製作所がどのような役割を担っていくことになるのか、非常に楽しみなところです。

ヤミと帽子と本の旅人

 本作品を一言で表現するなら、『ファンタジーの世界観を全力で楽しめる一作』ではないでしょうか。作品全体を通しての一貫したテーマやメッセージといったものを強く感じ取ることは私には出来ませんでしたが、メッセージではなく、設定や雰囲気を楽しむモノと割り切れれば非常によい一作だと言えると思います。

 例えば、作品の舞台設定はファンタジーの世界をそのまま形にしたようなもの。本の中には様々な世界が広がり、そしてそれらを包含する大きな書斎世界が存在する……。図書館には様々な世界が広がるという、あのファンタジー感を綺麗に作品設定に落とし込んでいます。これ以外にも例えばそれぞれの本は通常完全体であり、傷がつかないと(=理論的な綻びがないと)その外に出ることができないであるとか、本の世界から外に出るには死ぬしかないとか、要素単位で見ていくと作品設定には様々な興味深いポイントがあります。

 また特筆すべきは美術面と音楽でしょう。原画の CARNERIAN 氏のイラストはもちろんのこと、美しい背景や黒を基調とした独特の色彩感。また基本的に BGM がなく SE によって作品が形作られている、というのもこの独特の雰囲気の醸成に一役買っています。また、初回特典として添付されている絵本とイメージサントラがとにかく秀逸。特にボーカル曲「夢影深遠」のセンスの良さが光ります。

 とはいえ、物語として見た場合にはあまりにも稚拙と言わざるを得ないのもまた事実ではあります。例えば全体構造がただのお使いゲームに過ぎないであるとか、せっかく主人公をあのような設定にしておきながら自己の存在に鋭く言及していかなかった(いけなかった)のはやはり作品としての深堀の甘さと言わざるを得ないでしょう。表層的な人間ドラマとしては色々と見るべき部分もある(例えばアダム、リリス、ガルガンチュアの類似性から来る人間関係の運びであるとか、あるいはリリスが本当に求めていたのは自分のことを思ってくれるパートナーであったことなど)のですが、それを後ろから支える『構造』がなかった、というのが本作の最大の問題でしょう。

 結局、ファンタジーの世界観を全力で作品に盛り込み、ゲームの中で旅をする感覚を味あわせることには成功していたのかもしれませんが、それ以上に深いものが皆無といってよいほどなかった、そこが極めて残念な一作です。はっきりと言ってしまえば、別段このようなゲームをプレイせずとも、ファンタジーが好きな人は、絵本やファンタジー作品を読むことで現実世界の中でいつでも違う本への旅をしているのです。なぜそれをゲームの中でメタものとして表現しなければならなかったのか。そこに必然性なりメッセージ性なりが全くなかった以上、やはり表層部分で楽しむに留めるのが本作品の正しい楽しみ方ということになるのではないか、そう思うのです。

東方紅魔郷 〜 the Embodiment of Scarlet Devil.

 たまたまとらのあなで見かけて手に取ったシューティングゲーム。敵弾がそれこそ雨あられのように降り注いでくる弾幕シューティングゲームなのですが、プレイしてみるとこれが非常に面白い。確かにいかにも同人くさいところはたくさんあって、敵キャラの少なさ、自機の種類の少なさ、背景の貧弱さ、などなど挙げればキリはありません。しかし敵の弾幕パターンの豊富さや基本システムの素性の良さによってゲームそのものは単純明快な面白さに満ちています。この単純明快な面白さこそ、昨今のシューティングゲームが忘れてしまっているものでしょう。グラフィックも明らかに綺麗で凝っているグラディウスIVよりも、ついついグラディウスIIIの方が萌えて、じゃなかった、燃えてしまうのはなぜか。それに通じるように思えるのです。

 サークル自身が「21世紀の20世紀弾幕STG」と呼ぶ通りゲームシステム自体は古臭いかもしれませんが、時代を超えて変わらぬシューティングゲームの面白さがここにある、そう感じられるゲームでした。

 ……でも私にはこの難易度でも難しすぎるんですけど。(汗) 上海アリス幻樂団の Web サイトから体験版が DL 出来るので遊んでみるとよいかも。次回作「東方妖々夢」もかなり期待できそうです。ほとんど同じっぽいですがそこがイイ!ってもんでしょう。(^^;)

斬魔大聖デモンベイン

 前作"Hello, world."から約半年ちょっとというかなり早いペースで発売された、nitro+の最新作「斬魔大聖デモンベイン」。今回はメカものということで、Phantomやヴェドゴニアのようなものを期待された方々も多かったのでは、と思いますが、ひと言で言えば「無難にまとめられた一作」という総評になるかな、と思いました。

 確かにいろいろな側面で頑張っているのは事実だと思います。メインルートは 3 本ありますが、各ルートのシナリオ重複率はおそらく半分程度、ファーストプレイでゆっくりやると 10 時間程度、豊富な 2D / 3D の CG 群。ハロワは『無駄に長い』という印象も拭えない部分がありましたが、本作は尺を多少縮めて濃度を高め、非常にリッチに作られた一作であるという印象を強く受けますし、それ以外にも特筆すべき点は数多くあります。にもかかわらず敢えて「無難」と表現したのは、作品としてリスクを回避した作りになっているように感じられるからです。

 例えばラストまでプレイを終えた上で「この作品のテーマって?」あるいは「この作品で一番面白かった部分って?」と考え直してみたとき、これだ!と言える唯一無二の『コア』がなかなか見当たりません。実際、Web 上での評価も色々と見て回ってみましたが、全体的には概して好評とはいえ、好評にせよ悪評にせよ「どこを見ているのか」が人によって大きくブレています。プラス方向から捉えれば、多彩なニーズに応える萌え萌えな海水浴(^^;)、重量感の伴ったデザインのロボットたち、隠し裏設定に頼らずすっきりと解き明かされるすべての謎、分かりやすい対立の構図。マイナス方向から捉えれば、脈絡の無い海水浴、気迫に欠ける戦闘、割とありきたりな設定、信念のぶつかり合いの伴わない力のぶつかり合い。考えてみれば、作品として総花的な作りなのですから評価点が一定しないのもある意味当然のことなのではないでしょうか。

 これはハロワにも共通することですが、nitro+ がユーザから期待されていること、今のギャルゲ界のメインストリーム、ゲームの尺、その他もろもろ、こうした制約条件を意欲的に取り込み、より優れた面白いエンターテイメント作品を作り上げようという姿勢は高く評価できることだと思います。しかしその半面、「総花的」と感じられる点を突き抜けていないこともまた事実であろうと思います。私はハロワの失敗が、「萌えと燃えの融合」を目指しつつも実際には「融合」できずに(=融合することにより相乗効果的に発生する新たな魅力を創出できずに)単に「混在」させるに留まってしまった点にあると思うのですが、本作デモンベインもまたそれに近いものがあると思います。確かに、表面的な作りがより堅牢になっているため、おそらくそこそこ多方面のニーズを満たすことはできるのでしょうが、何らかの期待感を持ってプレイすると物足りなさが残るのではないかと思えるのです。

 もっと端的な言い方をすると、この作品からは一種の『挑戦感』が伝わらず、『意欲作』という言葉を当てはめにくいのです。エンターテイメントとして無難によく出来ていることは 100 % 認めつつも、なぜここで留まってしまうのか? 「面白いエンターテイメント」というのは表層的な楽しみ方しか出来ないものなのか? そういう物足りなさが感じられてしまう一作なのです。特にその挑戦感が不足していたのはこの作品の「人間ドラマ」の部分です。主人公である大十字九郎を初めとして、アル・アジフ、マスターテリオン、エセルドレーダなどのキャラ布陣は見事であったにもかかわらず、彼らにとっての戦いは何なのか。その部分の意味付けが致命的に浅かった。本来、ロボットものはそうした人間ドラマとしての意味付け(例えば信念のぶつかり合い)が巨大ロボ同士の力のぶつかり合いに投影されるからこそその勝利にある種のカタルシスがあるわけで、そのリンク(あるいはその演出的な見せ方)が不完全な状態で巨大ロボが殴り合ってもそこにカタルシスはないのです(この点に関してはすべてのシナリオで不完全だとは言いませんが)。もう少しこの部分を深く掘り下げて確固たるものを作り上げ、それをコアとして作品のパーツを従属させるように作り込んでいたら「総花的」という印象も全く変わっていたのかもしれません。

 様々なパーツがよく作りこまれているだけに上記のような評価は非常に手厳しいものだとは思います。しかしある本の言葉を借りてこの作品、引いては昨今の nitro+ の現状を表現するのであれば、「"Good" に甘んじていることが "Great" になることを妨げている」のだと思えます。確かに今の nitro+ には、虚淵氏が Phantom を作り上げた頃と違って守るべきものもたくさんあり、リスクを取った挑戦もやりにくくなっているのは事実でしょうが、そこを突破することこそ今の nitro+ の課題なのではないか、そんなふうに感じさせられる一作でした。

逆転裁判 (1 & 2)

 これをやりたくてゲームボーイアドバンスが気にかかっているゲーマーも多いと言われる、ゲームボーイアドバンス向けの名作アドベンチャーゲーム「逆転裁判」。1 作目はすでに 2 年前の作品になっていることもあり、やや今さら感のあるインプレではありますが、手短にまとめておきたいと思います。

 どんなゲームかご存知ない方は是非こちらのサイトで体験版をプレイしてみて頂きたいのですが、簡単に言えば証拠品を集め、証人の発言の矛盾点を暴いていくことで裁判を勝利に導いていく、というゲーム。最近ではほとんど見かけなくなった良質なアドベンチャーゲームで、脚本・演出の上手さでマシンスペックをものともしない素晴らしいストーリー展開を見せてくれる一作に仕上がっています。

 このゲーム、良い点を挙げ始めるとなかなか枚挙に暇がありません。審議中の「異議あり!」「待った!」「くらえ!」というベタな効果も使うタイミングが見事で、ビシっと決まるとこれがなかなかカッコいい。BGM も編曲が非常に素晴らしく、ストーリーを見事に盛り上げる。そしてなにより登場してくる人物がこれまた魅力的。主人公の成歩堂を初めとして、敵方の御剣検事や狩魔検事が非常にいい味を出してくれています。テーマ性を追求している作品ではないものの、背後に流れるテーマがベタで直球勝負なのもこの作品の素性を良いものにしています。

 推理モノのゲームとしてどうか、というと確かにやや微妙な面もあります。特に 2 作目はトリッキーな展開や恣意的な印象を受ける展開もいくつかあり、なかなか正解に辿り着きにくいというジレンマを感じながらプレイしたのもまた事実です。純粋に推理モノとして腕っ節一本で戦おうとするにはやや弱い面もあります。

 しかしこの作品の場合はそうした真面目すぎる推理モノではないところがよいのでしょう。実際、オカルトものを推理の中に組み込むことなど言語道断では?という指摘もありそうですが、リアリティをひたすらに追求するのではなく、オカルトもロジックに組み込んで積み上げられたミステリになっているからこそ、このゲームは面白く、そして飽きずに最後までプレイできるのだと思います。ある意味、登場人物たちが漫画的に熱くぶつかり合う。だからこそ快く遊べる。非常に素性のよいエンターテイメントであろうと思います。

 どちらの作品もおおよそ 8 時間程度のプレイ時間。私は寝食を惜しんで一気にプレイしてしまいましたが(^^;)、非常に面白いのでお薦めです。ゲームボーイアドバンスを購入したら是非。

NEED FOR SPEED - HOT PURSUIT 2

 国内ではあまり馴染みのないタイトルかもしれませんが、知る人は知っている(らしい)ELECTRONIC ARTS のレースゲーム。たまたま入手する機会に恵まれ、自宅にあるハンドルでプレイしてみたのですが、これが抜群に面白いゲームでした。

 ゲームのスナップショットは是非 US の Official サイトのこちらを見て頂きたいのですが、フェラーリ F50 や McLaren F1LM などに乗って、山あり谷ありの変化に富んだコースを疾走していくというレースゲーム。レース内容も単純な順位争いだけでなく、特定車種でのタイムアタックや各周の最下位だと即時失格のデスマッチ、複数コースを使ってのポイントレースなど多岐に渡り、さらにはパトカーに乗って暴走車に自車をぶつけて止める "Be the Cop" モードまで搭載(^^;)。いやはや、やはりアメリカ人はこういうのが好きなのでしょうか。

 EA Sports のゲームということもあってかゲーム内容そのものは決して難しくなく、オートマを選べばかなり爽快に走れますし、この手のゲームで不安なマシンスペックもそこそこで大丈夫(ちなみに私は Celron 2GHz + Ti4200 で遊んでます)。コースも多岐に渡り、地中海を思わせる海沿いのコース、森林を駆け抜けて海沿いに出るコース、秋の紅葉の美しい山岳コース、なぜか火山まである謎のトロピカルアイランドコース。コースの取り方も様々で、長いものだと 1 周 5 分程度になるものまであります。半面ドライブセッティング類(サス調整など)は皆無で、かろうじて車の色が選べるのみになっているだけですが、Microsoft の ForceFeedback Wheel USB などと組み合わせれば手軽にドライブ気分で遊べる仕上がりになっているのが楽しい一作です。

 日本市場の場合、F1 系のゲームか、あるいはグランツーリスモやリッジレーサーなどのレース色の濃いゲームが非常に多く、ドライブ色が強いものでも首都高バトルなどコースの変化にあまり富まないものが多いのですが、このゲームをプレイしてみてドライブタイプのゲームの楽しさを実感させてもらいました。国内だと最新作の入手は難しそうですが、ドライブゲーム好きの方にはお薦めしたい一作です。(というか、EA さんには日本国内でも是非発売して欲しいタイトルですね。)

東方妖々夢 〜Perfect Cherry Blossom〜

 「東方妖々夢」は Windows 用の縦スクロールシューティング同人ゲーム「東方紅魔郷」の続編にあたる作品です。先日のコミックマーケット64で頒布され期待と共に購入してきましたが、その内容たるや期待を大幅に上回る傑作と呼んでよい一作でした。コミケ以来、ほぼ毎日のように睡眠時間を吸い取られ、ようやく Extra のクリアまでこぎ着けたところでそろそろインプレをまとめておきたいと思います。(ゲーム紹介は頒布元である上海アリス幻樂団のこちらのページを見ていただきたいのですが、多少でもシューティングゲームに興味のある方は是非体験版をダウンロードして遊んでみて下さい。)

 このゲーム、とにかくよく出来ているシューティングゲームです。見た感じ「式神の城」を彷彿とさせる、一見古臭さを持った縦スクロールシューティングゲームですが、ゲームシステムの古さとは裏腹にその中身はこれでもかというぐらい充実しています。まず目に付くのは見た目の弾幕の美しさやカッコいい BGM ですが、このゲームの面白さと素晴らしさはそんな部分的な要素で語ることは決して出来ないでしょう。いくつかポイントを挙げてみます。

■ ゲームデザインの良さと奥深さ

 4 段階の難易度設定と 6 種類の攻撃方法。これだけ聞くと地味に聞こえるでしょうが、細かいバランス調整によって初心者から上級者まで多彩な遊び方が出来るように設計されています。一例を取って言えば、ボムの数やパターン、食らいボムの判定時間に始まり、複雑でありながらバランスの取れたボーナス算出式。本作で導入された低速移動時の当たり判定表示は初心者にとっては難易度を下げ、上級者にとってはさらに厳しい弾幕が待つというまさに一石二鳥のシステム。クリアするだけなら割と簡単、しかし極めようと思うと地獄が待つという極端な二面性。ボスの攻撃パターンや難易度もレベルによって細かく調整されており、弾幕の美しさと面白さはそのままに、幅広く遊べるゲームシステムになっています。

■ 演出のセンスの良さ

 3 面あたりからその本領が発揮されてきますが、本当に素晴らしいのは 4 面以降の演出。とにかく盛り上げ方が上手い。画面効果、BGM、弾幕の三位一体の調和から来る高揚感は、数あるシューティングゲームの中でも最高峰の出来といってよいでしょう。シーンの切り替わり方一つ取ってもそうですし、きめ細かく BGM とタイミング合わせが行われているボスの出現や画面効果などは一見の価値があります。プレイしているときの高揚感ももちろんのこと、リプレイを見ているだけでもアツくさせてくれるその演出のセンスの良さは抜群だといわざるを得ません。

■ 多彩な攻撃パターン

 このゲーム、恐ろしいことに全部で 141 のボスの攻撃パターンがあるのですが(^^;)、その攻撃パターンの多彩さが素晴らしいです。往々にしてこの手の攻撃パターンはある特定のパターンに偏りがちなのですが、このゲームのその多彩さとバランスの良さは目を見張るものがあります。上下左右からの同時攻撃、速い弾と遅い弾の混合攻撃、回転やねじれ、包み込みなど、思いつく限りのイヤらしい攻撃パターンが満載。それでいながら一見逃げ場がなさそうに見えてきちんと避けることが可能なように作られているパターン設計は実に見事です。

■ 全体の統一感

 そしてこうした一つ一つの要素のレベルの高さもさることながら、なによりゲーム全体の一体感と統一感の素晴らしさに舌を巻きます。先ほどの演出のセンスの良さとも関連するのですが、イラストも弾幕パターンも音楽もゲームシステムもデザインも世界観も、何もかもが連動し、互いに相関し合っている。どれ一つ欠けても「東方妖々夢」にはならないし、どれもが揃っているから「東方妖々夢」たり得るのだ、そう思わせるだけの統一感と総合力があります。

 これはゲームの面白さとは無関係ですが、これだけの品質を持ったゲームをたった一人で一年間で作り上げたというZUN氏はホンモノの天才だと思えます。プログラム、絵、音楽、ゲームデザイン、世界観、パターン設計などを一人でこなし、しかも一年間で作り上げているという脅威の事実。イメージをきっちりと形に落とし込めるのは並大抵の実力ではありませんし、物量にしても仕事持ちの個人が普通に作れる範疇を軽く越えています。しかもそれでいながら 1,000 円というフレンドリーな頒布価格設定。本当に頭が上がりません。

 前作の東方紅魔郷も確かに素晴らしい作品ではありましたが、今回の東方妖々夢のそれは前作の比ではありません。ZUN氏はおまけファイルの中で同人ゲームだからこそ我が道を行くのだと謙遜していますが、初心者から上級者まで万人が遊べるように設計されたシューティングゲームなど商業市場を見回しても皆無です。「ユーザフレンドリ」という大義名分の名の元に誰でもクリアできるようなゲームにしたり、あるいはシューティングゲームの姿を失ってキャラものゲームに成り下がるようなものが増える中、制作者のワガママだと言いつつも本来のシューティングゲームとしての高揚感と面白さを最大限に追及し、それでいながら千差万別の遊び方を許容しているこのゲームは、まさにシューティングゲームとしてのお手本と言ってよいはずです。こういうゲームをプレイしていると、本当に素晴らしいものは実力とセンスと実行力の伴ったホンモノの天才の情熱から作り出されるものなのだと実感させられます。

 こういう素晴らしいゲームをプレイしていると、本当にいろいろなことを考えさせられますし、いつもの悪いクセで色々なことを語ってしまいます。とはいえ、このゲームに関してはそんな御託を並べてみたところでその良さと素晴らしさは語り尽くせません。むしろただ一言、強烈に面白いシューティングゲームである、それだけでもう十分なのかもしれません。皆さんも是非一度、プレイしてみてください。

ギャラクシーエンジェル Moonlit Lovers

 ブロッコリーの代表作の一つ、ギャラクシーエンジェルを元に制作された、リアルタイム 3D シミュレーションゲーム。2 作目となる本作品「Moonlit Lovers」は、次回作の完結編「Eternal Lovers」への繋ぎの感の強い一作ではありましたが、それなりに楽しめる一作に仕上がっていました。綺麗に完結していた前作を無理矢理 3 部作に拡張した感は否めないものの、よく頑張っている一作のように思います。

 PC 版ギャラクシーエンジェルで見逃せないのがやはりシュミレーションゲーム(SLG)パートでしょう。オフィシャルサイトにまるっきり SLG パートのことが取り上げられていないのには苦笑せざるを得ませんが(なのでこちらを参照(^^;))、このゲームシステムは単体でも十分売り物になるもので、その素性の良さが作品全体のレベルの底上げにかなり寄与しています。マウスでグリグリとカメラ視点を切り替えつつ自動的に進行していく戦闘は、遠目で見ていても楽しいものです。しかも本作では超高画質モード(Ultra モード)が追加され、より一層美しさに浸れる(笑)ようになっています。

 ただ全体に共通する残念な点は、SLG パートにしてもシナリオにしても、まだまだ練りこみと工夫の余地があるように感じられた点です。例えば SLG パートについて言えば、キャラごとの強弱がはっきりしすぎている点やステージ構成の単純さが挙げられますし、シナリオについて言えばもう少し上手い引き伸ばし方や盛り上げ方もあったのではないかと感じさせられます。前作と比較してみても、民間船脱出戦のようにプレイに一工夫必要なステージもありませんでしたし、ストーリー展開も絶体絶命の状況に追い込まれていく緊迫感などはほとんどない展開でした。前作の時点で詰め込めるものを詰め込みすぎてしまっただけに本作はもともとネタ切れ感があるのですが、そうは言ってもそれがそのまま作品の表面に出てきてしまっているような印象があるのはどうでしょうか。狂言回しのレゾムを前半で前面に出したのもやや失策の感がありますし、もう少し何か工夫できたのではないかと思えてしまいます。

 とはいうものの、あいかわらずテキストのセンスの良さには目を引かれるものがあります。ちょっとしたセリフの言い回しや機微など、ウィットネスに富んだ会話は読んでいてなかなか悪くありません。例えばノアから話を聞きだすところも 5 種 5 通りのアプローチがありながらどれも違和感がなく、あるいは考えようによっては思想的に少し深いようなセリフを違和感なくさらりと軽く言って流すといった部分には素直に感心します。ギャルゲでありながらも、幅広い着眼点と気転の利いた味のあるテキストはよいアクセントになっています。まあそれがメインディッシュのウリになるようなものではないものの、SLG パートを引き立てる役回りとしてはよい味を出していると思います。

 さすがに悪乗りしすぎなランファルートのセリフ群、あるいはちとせルートの不在(これはちとせが真の黒幕という可能性も示唆していますが)など、叩かれてもおかしくない要素はいくつも持っているとはいえ、総合的に考えれば決して悪くない一作です。特に SLG パートはゲームとして見ても必見なので、未プレイの方は是非先のサイトから体験版をダウンロードしてみて頂きたいと思います。

魔女っ娘ア・ラ・モード

 ミント王国一の教育機関、国立トゥインクルアカデミーで繰り広げられるマジカルコミックアドベンチャー、それが本作「魔女っ娘ア・ラ・モード」。タイトルからしていかにもダメそうな中身のないゲームに見えますが、その実体はというと、これがまた期待を裏切らず中身のほとんどない、F&C らしい一作でした(苦笑)。

 このゲーム、予想外に細かい世界観の作り込みがなされているのですが、その割にそこで展開される物語はこれでもかというぐらいに平凡で、オフィシャルサイトで紹介されている通り「可愛い女の子とペアを組んで期末試験を乗り切ろう!」というだけの物語です。分岐らしい分岐もなければ、ストーカーよろしく狙いの女の子ばかりをつけ回し、他キャラは全く無視して視界に入らず。幼なじみ二人組もやたらと物分りが良く、修羅場も強烈なイベントもほぼ皆無。展開もギャルゲ的王道パターンそのもので、高い潜在能力を秘めたスチャラカ鈍感主人公が女の子と仲良くなっていっていつの間にか凄い人になっている、なんていうお手軽ストーリー。そうした都合の良さもさることながらゲーム全体のバランスもこれまた悪い。基本コンセプトが「期末試験を乗り切ろう!」であるため、前半部のパートナー選びがだらだらと長く、ようやく試験になったと思ったらあっという間にエンディング。……とまぁ常識的な思考をもってすれば、とても誉められたストーリーとは言えないでしょう。

 しかしその半面、ゲームの作り込みに関してはギャルゲならではのある種の潔さや割り切りが随所に見られるのも確かであり、プレイ後に物足りなさから来る不満は残れど嫌悪感が残ることはありません。キャラデザは可愛く、どの CG も綺麗で、☆画野朗氏に比べると一歩劣る感も否めないとはいえ十分なクォリティ。作品全体がライトテイストでまとめられており、作品の尺が割と短い点(初回プレイでも 4 〜 6 時間程度で 5 キャラしかいない)や起伏の少ない展開も、ある意味、この作品の身の丈に合っていると言えば合っています。萌えが弱いという批評もあるとはいえ、「あんぱん〜」ような頭の悪いキーワード的なセリフを連呼するキャラが少ないこともあって、イタイタしさが少なかった点は良かったように思います。なまじテーマ性の高いイベントを無理に押し込めたり、あるいはキャラ萌え狙いでイタイタしい会話が延々と続いたりするよりも、こうした割り切った作り方をされた方がむしろすっきりしており、かわいい女の子好きなライトなギャルゲーマーには素直に推薦できる一作に仕上がっています。

 中身のなさとかわいいイラストという極度にアンバランスな組み合わせは、大昔のカクテルソフト時代の F&C の作品作りを思わせるものがあり、昨今の作品レベルからすると(後述するナナシナリオを除いては)かなり見劣りするのが実際だとは思います。とはいえ、「魔女っ娘」という属性モノとしての割り切った作り込み方は、その内容的な薄さも含めて実に F&C らしい、とも感じられます。イラスト買いなら素直におすすめ、シナリオ買いなら絶対に回避、と一刀両断にまとめられるあたりは良くも悪くも F&C の狙い通り、ということなのかもしれません。

 ただ唯一、ナナ(バージョン・ナナ)のシナリオだけはキラリと光る要素を持っていました。以下、ネタバレになりますが簡単に整理しておきたいと思います。プレイされた方のみ読んでいただければ幸いです。

 バージョン・ナナのシナリオは一見すると典型的な泣きゲーシナリオではありますが、そのラストの描写が非常に見事でした。ライトテイストな作品作りの中で、うまく死を取り扱ったシナリオだと言えるでしょう。

 いくつかの Web 上での批評を読むと展開があまりにありきたりだという非難もあるのですが、このシナリオは展開の巧妙さを狙っているわけではありません。実際、多くの死にゲーにおいて「死ぬ」ということが明らかにされるのがシナリオの中盤から後半にかけてであるのに対して、このシナリオではまず前半の早い段階でナナが機能停止することが明かされ、そのあとに続いて出てくる伏線も展開も、どれもこれでもかというぐらいミエミエでベタベタです。物語そのものは極めて予定調和的に進行していき、そして予定通りナナは機能停止を迎えます。

 ところがこの作品が一味違うのは、この機能停止とそれに続くラストの演出の方向性です。似たような凡百の作品ではこうした展開においては「死ぬ」ということ自体の描写、特に弱っていく過程の描写に力が注がれ、プレイヤーを泣かせるようにこれでもかというぐらいの様々な演出を用意します。ところが本作品ではこの点の演出はかなり押さえ気味で、特に実際に機能停止する最期の直接的な描写は伏せられており、そのかわりにダイルからナナに語られた最後のウソを機軸にして綺麗な大団円へと話を持っていくところに力が注がれています。ダイルが語った最後のウソ、それはナナにとっての希望になり、そしてダイル自身にとってのキッカケになる。その微妙な一連のプロセスを、大賢者ソレイユをうまく立ち回らせるなど絶妙なさじ加減で描写しているのが見事です。

 「死」から来る「泣き」を強調する演出方法で最後に残るのは空虚な喪失感。それを前向きな気持ちに置き換えていく描写に失敗している作品が多い中、この作品はむしろ喪失感の描写を最小限に抑えつつ、ダイルが前向きな気持ちに切り替わっていく様を描写するところに力が注がれています。シナリオを終えたあとに残る爽やかな前向きさは、凡百の作品とは異なるこうした演出なくしては得られなかったものだろうと思います。

 テーマ的にはかなり重たいシナリオであるにもかかわらず、作品全体のライトテイストの中でこれをうまく取り扱って成功している点は素直に高く評価できると思います。また、このナナのシナリオはホムンクルスやダイルの潜在能力の高さ、弟子を取らないソレイユなど、様々な要素が一本に繋がるため、幼なじみ二人組よりもむしろ心に残るシナリオかもしれません。個人的には非常に気に入ったシナリオです。

Ys VI 〜ナピシュテムの匣〜

 アクション RPG (ARPG)の古典そして代名詞とも言える Ys シリーズの新作、Ys VI 〜ナピシュテムの匣〜。往年のゲームファンには忘れられない作品であろう Ys シリーズの 8 年ぶりの新作となれば不安ながらも期待を寄せずにはいられない、多くの人にとってはそんな感じだったのではないかと思います。私も見つけるや否や早速 Falcom の通販から申し込んで発売日に購入、ぶっ通しでプレイしてクリアしましたが、総じて言えば及第点レベル止まりだったかな、という印象を受けます。良くも悪くも背負うものが大きい作品ですし、おそらく今後様々なサイトで酷評が相次ぐだろうという気はするのですが、私なりにこのゲームの良し悪しを簡単にまとめておきたいと思います。

 先に結論を書いてしまうと、このゲームの問題点は「アクションゲームとしては良く出来ているが冒険活劇として面白くない」、これに尽きます。私は ARPG としての Ys シリーズの良さの根幹には、「アクションゲームとしての面白さ」と「冒険活劇としての面白さ」の 2 つの側面があると考えているのですが、後者をうまく作り込めなかったのが Ys VI の敗因ではないかと考えています。

 まずアクションゲームとしての良さについて。さすがに時代の流れに従ってか本作は従来の 2D 型アクションゲームから半固定視点の 3D アクションゲームへと進化しています。見た目こそ以前の Ys シリーズと違うものの、3 種類の魔法剣を使い分けながらサクサクと攻撃していく爽快感は Ys シリーズならではのもの。確かにアクションゲームとして独り立ちできるほど洗練されたシステムかというと難しいところですが、「Ys」という看板を前提にして考えれば非常に良くデザインされていると言えると思います。単純な攻撃システムでありながらも多彩な攻撃パターン、攻略が楽しいボスキャラ、経験値稼ぎをしている最中もそれなりに面白いなど、ゲームとしての爽快感、「Ys らしさ」は形を変えながらもよく継承されていると思えます。ARPG、アクション RPG と言うぐらいなのですからアクションゲームとして面白いことはまず何よりの必須要件ですが、ここの部分は十分にクリアしていると言えるでしょう。

 アクションゲームとしては間違いなく面白いし Ys らしい、にもかかわらず Ys VI をプレイしても "Ys らしさ" を感じないのは何故なのか。それは『冒険活劇としての面白さがない』からだと思います。もっと分かりやすく書くと、ワクワクドキドキといった単純な(しかし RPG には必要な)感情をプレイヤーに味合わせること、それに失敗していると思うのです。

 Ys VI になぜ「ワクワクドキドキ」感がないのか。それは Ys I, II と Ys VI を「物語」として比較してみるとよく分かるのではないかと思います。Ys VI には壮大感とアドルの感情起伏が致命的に欠けています。

 まず壮大感について。もともと Ys I, II にはとにかく物語を大きく見せるための「仕掛け」が数多く用意されていました。古代文明の存在、巨大な塔、地上に降りてくる空中都市、亜空間での凶悪なラスボスとのバトル。こうした仕掛けは(しょせんはこけおどしなのですが)舞台の広さや物語のスケール感を演出するのに十分すぎる役割を果たしていました。それに比較してみると Ys VI には物語を大きく見せるための仕掛けが非常に弱い。舞台設定しかり、ダンジョンの取り方しかり(ラストダンジョンの地味さにはさすがに閉口しましたが……)、危機感の演出の弱さもしかり。ナピシュテムの設定も全く生きておらず、最後の最後まで細かいところでしか話が進まない。これでは未知のもの、巨大なものに挑んでいくという『ワクワク感』がないのも当然のことでしょう。

 もう一つはアドル(プレイヤー)の感情起伏のなさです。Ys シリーズに限らず、優れた作品というのはシチュエーションの積み重ねでプレイヤーに何かを感じさせるように作られているものです。例えば Ys II の鐘つき堂での一連の出来事、地下水堂で冷たく石化したリリアなどが確かにプレイヤーに何かを物語る。立ちふさがる悪と絶望感の前にそれでも立ち向かおうとする勇気、あるいはそこに生まれるほのかな恋物語。冷めた目で見ればいずれも実直すぎるつまらない感情かもしれませんが、物語の中にこうした確たる「感情」が根付いているからこそプレイヤーは物語にのめり込むものでしょう。しかし本作にはそうした「何か」を感じさせる仕掛け(=演出)が皆無といって良いほどなく、アドルが機械的に冒険という名の「作業」を進めているような印象さえ受けます。

 上記と関連しますが、アドルが色恋沙汰に興味を示さない(あるいは女性がらみで頑張るような筋書きになっていない)というのもまた致命的な問題です。いつの間にアドルは冒険一筋バカになってしまったのでしょう? Ys をはじめとする正統派 RPG において、設定の壮大さと主人公の色恋沙汰は面白さを演出する 2 大エッセンスとも言える要素のはず。前作との兼ね合いがあるとはいえ、なぜこの 2 大要素を真っ向から切り捨ててかかったのか理解に苦しみます。キャラクターを印象づけるようなイベントも少なく、出てくる女性陣も勝手にアドルに恋して勝手にくるくる回っているような印象さえ受ける始末。イーシャにいくら「おにいちゃん」と呼ばれても全く萌えなかったプレイヤーは非常に多かったのではないでしょうか?

 まとめると、"今どきの Ys らしいアクションゲームを作ること" に力が注がれ、"アドルの冒険活劇を作ること" という本来のあるべき姿からは遠ざかってしまった一作のように思います。確かにアクションゲームとしてはそれなりに面白かったと思いますが、"ARPG" としては凡百の作品に埋もれてしまう一作でしかありませんでした。プレイヤーが何かを感じることがない物語は心にも残らない作品にしかなり得ない、というと言い過ぎかもしれませんが、アクションゲームとしての面白さと物語の面白さが共存してこそ心に残る名作になるのではないでしょうか。背負ったものが大きい作品であるが故の手厳しい評価だとは思うものの、やはり私にはそれ以上の「お気に入り」にはなりませんでした。

 こうしてみると、Ys I + II、あるいは Zwei!! などがいかによく出来ているのかというのを改めて痛感させられます。特に Ys II Eternal はリメイクのセンスも含めて非常に素晴らしいものでしたが、それと比べてみると、いかに技術的に進化しても心に残らない作品はどこか寂しい、そんな印象を受ける一作だったように思います。


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