Ever 17 〜out of infinity〜 ネタバレゲームインプレッション

Last Update 2002/09/19

おねがい

 このページは Ever 17 のネタバレを含んでいますが、このゲームはネタが分かってしまうと面白さが激減します。ですので、未プレイの方は絶対にお読みにならず、是非とも PS2 版もしくは DC 版を購入してコンプリートしてから読むようにしてください。ネタバレなしのゲームインプレッションはこちらにあります。
 なお、直リンクから飛ばれてきた方々はトップページはこちらになります。よろしければどうぞ。(^^;)

はじめに

 このゲームの素晴らしさがどこにあるのか、それを語るためにはどうしてもネタバレを避けることが出来ませんが、いきなりその結論を語る前に、何点かこのゲームの構造と設定を要点をかいつまんで再度確認していきたいと思います。これらはココ編のラストで語られていることをもう一度整理し直しているだけですので、すでに分かっている方はざっと読み流して頂ければと思います。

ゲーム内容の整理

■ブリック・ヴィンケル(Blick Winkel)とは?

■偏在するココとは?

■倉成武編、少年(松永ホクト)編、ココ編の関係とタイムパラドックス

■このゲームにおける"n+1"次元(4次元)の概念とタイムパラドックス

このゲームがなぜ傑作なのか?

 ゲーム本編中で語られる謎解きと、上述した作品構造とその設定を前提に、なぜこのゲームが傑作なのかを考えてみると、以下の4つが一つの作品に見事に共存しているためである、と言うことができると思います。

 確かに上述した4要素は、良作あるいは佳作と言われる作品であれば一つや二つは持っているものなのかもしれませんが、これらを極めて高いレベルで融合し、見事な調和を持ってプレイヤーに語りかけてくる本作品は、まさに数年来に見る大傑作であると言わざるを得ません。真に優れた傑作とは、様々な要素(文学性、技巧性、エンターテイメント性、その他色々)を共存させつつも、独り善がりになることなくそれを分かりやすい形でプレイヤーにコミットさせていくことができるものを指すのだと、本作品をプレイして改めて実感させられました。プレイヤーよりも10段ぐらい高い視点で作りつつも決して独り善がりにならない本作品は、まさにプロフェッショナルが作った作品だと言えます。これからも、是非ともこのような傑作を作り出していってもらいたい、そして多くのプレイヤーの方々にこの作品を味わってもらいたい、そう強く思わせる一作でした。

おまけ

 以下、Official の Web サイトに書いた設定考察や、生体反応の謎などについて、いくつかおまけとして載せておきたいと思います。また気が向いたら何か加筆するかも。(^^;)

 なお以下の解釈は読みやすさ・書きやすさから断定調で書いてはいますが、四次元世界の考察などは大ウソが入っているはずですし、また作品解釈も必ずしもこれが唯一の答えではないと思います。実際、Official サイトでは他の説を採用して一貫した解釈を導き出している方もいらっしゃいます。特に研究者の方などその筋の方はかなり差し引いてヨタ話ぐらいのつもりで読んでくださると助かります(^^;)。

■おまけその1 … 4次元における『変化』の概念について

 このゲームで言われている「四次元」がどのようなものかを正しく理解するためには、"n次元"と"n+1次元"をアナロジー(類似性)で突き詰めていくと分かりやすくなると思います。このアナロジーを元に考えると、このゲームの最後で行われた「二つの時刻における史実の同時書き換え」がどのような意味を持つのかが明らかになってきます。

 三次元の世界には(x, y, z, t)という4つの軸があります。ただしこのうち t軸(時刻軸)の進行については不可逆であることに注意してください。

 これに対して、n+1次元、すなわち四次元の世界には5つの軸があります。その5つ目の軸を仮にa軸とすると、(x, y, z, t, a)という5つの軸があることになります。このa軸の正体が何であるかは我々は知ることができませんが、四次元の世界におけるa軸は三次元の世界における t軸のように不可逆な軸になっているはずです。

 このときパラレルワールドの概念が、三次元の世界と四次元の世界では若干異なります。

 まず三次元の世界においては、同一の時刻tに対して、ある(x, y, z)は一つしか観測できません。要するに、ある時刻tにおいて矛盾無く存在できる空間(x, y, z)は三次元人から見ると一つしかない、ということです。そしてこの空間は時刻t軸に対して連続的に変化していくため、三次元人から見ると、空間そのものが連続的に変化する、というのは当たり前のように感じられます(この空間が連続したもののことを一般的には「歴史」と呼ばれています)。ただし、歴史をどの時刻tで切り出したとしても、空間内での矛盾は発生していません。

 これに対して四次元の世界においては、同一のパラメータaに対して、ある(x, y, z, t)が一つしか観測できないことになります。要するに、あるパラメータaにおいて矛盾無く存在できる歴史(x, y, z, t)は四次元人から見ると一つしかない、ということです。しかしこの歴史はパラメータaに対して変化を遂げていくので、四次元人(BWや偏在ココ)から見ると、歴史そのものが連続的に変化していくのが当たり前ということになります。この歴史が連続したもののことをここでは「時空間」と呼ぶことにしましょう。ただしこの時空間をどのようなパラメータaで切り出したとしても、歴史内での矛盾は発生していません。

 ここまでの知識を元にパラレルワールドとは何かを考えてみると、以下のようにまとめることができます。

 話を分かりやすくするために、このゲームの内容に落とし込んで考えてみましょう。

 このゲームでは、三次元空間=ゲームの中の世界、四次元空間=プレイヤーや製作者の世界、として描かれています。すなわち、三次元空間における(x, y, z, t)という4つの軸は、ゲームの中の世界における空間と時間です。イメージをつかんでもらうためにもう少し分かりやすく書くと、ゲームの中に我々と同じような三次元空間が広がっている、と思ってください。ゲーム中のキャラクターたちが実在人物である、というように考えるとよいでしょう。

 ゲーム世界の住人は、ただ一つの歴史しか体験することができず、それ以外の歴史はパラレルワールドになっています。(注意して欲しいのは、「違う空間」がパラレルワールドなのではなく、『違う歴史』がパラレルワールドである、という点です。Y型分岐における因果律の進行軸はt軸ではなくa軸である(前後の因果関係はt軸ではなくa軸により規定される)、というトリックに気づかないとこの点は誤解されやすいです。これについては別セクションでもう少し詳しく解説します。)

 そして四次元空間における(x, y, z, t, a)という5つの軸は、ゲームを俯瞰するプレイヤーの時空間です。本来的なa軸は何の軸だかは分かりませんが、このa軸はこのゲームでは「プレイヤーのゲームプレイ時間軸」になっています。そしてプレイヤーは、ココたちの住む世界、歴史をa軸に沿って見る(ゲームをプレイする)ことによってまさしく「俯瞰」することができます。

 ここで、a軸の進行につれて(x, y, z, t)は変質していっていることに注意してください。つまりゲームプレイが進むにつれて、ゲーム世界内の『歴史』(史実)自体が変化していく、ということです。

 この現象をゲーム世界内部の住人から見ると、ゲーム世界内部の住人はa軸上のある点に対してしか固有でなく、a軸の進行を認識することができません。つまりプレイ時刻15:00のときのゲーム世界(歴史)内部の住人は、プレイ時刻15:30のときのゲーム世界(歴史)を認知することができません。(パラレルワールドになる)

 さて、三次元空間(ゲームの世界)において時刻が滞りなく進行していくこととは、その空間が『矛盾なく』『わずかずつ』『連続的に』変化していくことを意味します。これは我々の三次元空間で考えてみると分かりやすいのですが、我々の住む空間は時刻の進行と共にわずかずつ変化していきますが、どの時点を取り出してもその空間内に矛盾はなく(例えばAの右にBがあり、Bの右にAがある、といったことがない)、なおかつそれがわずかずつ変化していきます。

 これに対して、四次元空間(ゲームをプレイする立場)においてa軸(ゲームのプレイ時刻)が滞りなく進行していくこととは、その時空間(すなわちゲームの歴史そのもの)が『矛盾なく』『わずかずつ』『連続的に』変化していくことを意味します。つまり、ゲーム世界の歴史がゲームのプレイ進行に伴って変化するためには、

という2条件を満たしていなければなりません。

 実はこのゲームにおける、プレイヤー及び製作者のゲーム世界への干渉(すなわちBWと偏在ココの干渉)とは、まさに『ゲームの歴史の書き換え』(a軸進行に伴う三次元空間の歴史の連続的変化)をもたらすものに他なりません。

 例えば我々の日常生活において、空間中の物質は手を触れ動かすことにより位置座標を書き換えることができます。これと同様に、我々プレイヤーはゲームをプレイするという四次元的体験においてゲーム世界に干渉し、その歴史を書き換えることができるのです。

 ただし、なんでもかんでも書き換えが認められるわけではありません。その条件とは上に示した2つの条件であり、ゲーム中では、

  1.  2017年に、武が深海で復活し、IBFでココと共にハイバネーションに入る。
  2.  2034年に少年視点(ホクト)としてBWを発現させる。

の2つを同時に行うことである、というわけです。この二つのことを同時に行えれば、変質した先の時空間(ゲームの歴史)は原点に対して『矛盾なく』『わずかずつ』『連続的に』変化したことになります。(もちろん、ゲームスタート時点の歴史とはゲーム世界内部から見た場合にはパラレルワールドの関係になります。)

 上記の整理から、このゲームの流れを整理すると、以下のようにまとめられるかと思います。ここで、左→右の流れがゲーム内時刻軸t軸の流れ、上→下の流れがプレイヤー時刻軸a軸の流れ、になります。ゲーム世界内の人間(キャラクター)から見た場合にはある一つの歴史しか認知できず、右から左方向へ戻ることができません。ゲーム世界外の人間(プレイヤー、BW)から見た場合には複数の歴史を認知することができ(下の複数の「行」を認知することができ)、なおかつ一つの歴史内で右や左に自由に移動することができますが、下の歴史から上の歴史に状態を戻すことはできません。

→ t軸(ゲーム内時刻)

↓a軸(プレイ時刻)

2017年 2017年事故後〜2034年事件前 2034年 2034年以降
歴史(1) (ゲームスタート時におけるゲーム世界内の史実) @ BW発現、ココ&武 死亡 (つぐみルート) 優春、第三視点理論を構築 A BW召還、優秋救出(優秋ルート)  
ココ編 (B BWが四次元的視点(プレイヤー視点)で歴史全体を俯瞰し、歴史を改変する)  ↓ パッチ適用    ↓ パッチ適用  
歴史(2) (ゲーム終了時におけるゲーム世界内の史実) ココ&武 冬眠 優春、BWからの声を元に第三視点理論を提唱 冬眠しているココや武を救出 グランドフィナーレ

 プレイヤー視点(四次元人)から見た場合、a軸(ゲームプレイ時刻軸)は逆行不可であるため、歴史(2)が歴史(1)に戻ることはありません。……というのが大きな枠でのざっくりした私の解釈です。

 これをゲーム世界の住人から見て「救われた」と見るかどうかは難しいところですが、このゲームの面白いところはゲーム中の時間軸とプレイヤーの時間軸とをうまく利用して、ユーザに四次元人の感覚(^^;)を味あわせたところにある、と思います。実際にはゲームという形態の限界上、プレイ時刻が1秒変わるとゲーム世界(歴史)が変化する、という形には完全にはなっていないですけれども(当たり前ですが)、十分によく仕掛けられている、と言っていいのではないでしょうか。

■おまけその2 … Yu-no の四次元概念と Ever 17 における四次元概念の違いについて

 パラレルワールドをうまく使ったゲームというと何といっても Yu-no が有名ですが、Yu-no や一般世間で考えられているパラレルワールド(世界がY型に分岐していくという考え方)は、Ever 17が提示しているパラレルワールド、タイムパラドックスの考え方と相反しているのではないかと考えています。

 もちろん一般的にパラレルワールドと言った場合にY字型分岐のことを指していることは承知しているのですが、Y字型分岐だけでパラレルワールドを捉えてしまうと、2017年と2034年に同時にパッチを当てて別の歴史の流れに移行する、という考え方がうまく説明できないのです。これについて、少し以下に説明を加えたいと思います。

 一般的なパラレルワールドの考え方は『時刻の進行』において取りうる選択肢の違いによって世界が分裂していくという考え方を取りますが、三次元と四次元の類似性から考えて見るとややおかしなところがあります。

 まず三次元の世界において、1つのリンゴを2つに切ったAとBがあったとき、それらは完全に全く独立なものではありません。なぜなら、リンゴの断片Aとリンゴの断片Bとは元を正せば同じリンゴだったからです。つまり空間中の2つの物体は、『時刻軸t』にそって原因と結果があります。すなわち、三次元においては一方向進行となる時刻軸tが因果律を決めています。

 では四次元の世界において、二つの歴史XとYがあったときそれらの間の関係性を決めているものは何かを三次元のアナロジーで考えると、それは四次元空間において一方向進行となっている5つ目の『次元軸a』であるはずです。つまり四次元空間中の2つの歴史は、次元軸aにそって原因と結果があるはずです。つまり因果律は4つ目の次元軸tではなく、次元軸aによって決められているのではないでしょうか。

 そして、三次元の世界において時刻軸tに沿って物事が進行していく場合に、二つの物体AとBが同時に変化(移動)をしていけるのと同じように、四次元の世界において次元軸aに沿って物事が進行していく場合には、『ある時刻t1の事象とある時刻t2の事象とが同時に変化していく』ことが可能であるはずです。そしてa軸の異なる二つの歴史のことを三次元から見たときに、これがパラレルワールド(観測され得ない歴史)になるのだと思います。

 この考え方からすると、Y型分岐という考え方は狭い見方でしかパラレルワールドを捉えられておらず、一つの歴史の二つの時刻の事実を同時に書き換えて歴史をずらす、という発想を取り得ません。しかしEver 17の四次元空間に対する概念というのは歴史上の二点の事実を同時に書き換えることにより歴史をずらすという発想であって、Y型分岐よりもより四次元的な考え方に近いのではないだろうかと思います。

 もっともこの考え方はこのゲームではコンセプトとして使われているのであって、実際のシナリオテキスト上では厳密に上の話が突き詰められているわけではなく、もう少しドラマチックな形に歪められて表現されていますし(ホクトが2017年に戻って呼びかけたり、深海で武が復活したり、など)、ゲームのプレイ時にはt軸とa軸は現実的には混在しています。とはいえ、最終的にt軸とa軸を同一の軸であるかのようなゲームデザインになってしまったYu-noに比べると、Ever 17のゲームデザインは単純ながらも実は非常に面白い概念を取り扱っていると言えるのではないでしょうか。

■おまけその3 … 生体反応の数の謎

 本編の内容から考えるとあまり重要性のある部分ではないのですが、まあこんなものもある、ということで。



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